高と黒
**いやだってほら、びっくりして
「君はなにがしたいのですか?」
そんなことを真顔で聞かれてしまって、オレは思わず吹き出した。
「ぶふっ!おまっ、この状況でそれ言うの?」
ヒクヒクと腹と喉が引きつり笑うのをなんとか堪えながら、顔を落とす目標を変えて黒子の肩に額を軽く押し付ける。
それを邪魔だのなんだのと嫌がらずに受け入れてくれていることは嬉しいが、すっかりタイミングを逃してしまったようだ。
失敗したなぁと思いながら、壁に両手を着いていた高尾は右手を外して黒子の肩を叩いた。
「痛いです」
「くくっふっ……はー、そっかそっかー」
「……ほんと、なんなんですか君」
呆れたように、いや若干不愉快そうに降ってきた声に普段は少し上から見ている顔を、少し下から見上げるように視線を向けた。
するとやはり少しばかり口元がへの字のように曲がっていてわかりやすく不機嫌を訴えていた。
「ふくくっ」
「なにが面白いんですか全く……」
「いやだってさぁ、」
「ボクは全く面白くもなにもありません」
叩くのをやめ、黒子の肩に軽く乗せられていた高尾の手が不意に掴まれた。
「えっ?」
なんだと思って高尾が黒子を窺うため首を捻ると、目の前に黒子の真っ直ぐな目があった。
「く、ろこ?」
あまりの近さに動揺する高尾はそれしか言えなかった。
それ以上なにもできなかった。
黒子の唇と自分のそれが触れ合い、離れても、黒子が一言口にするまでまるで金縛りだかなにかの魔法に掛かったかのよう身動き一つ取れなかった。
「違いましたか?」
「……へ、えっ?!」
漸く時が動き出したと思ったら咄嗟に出たのは腑抜けた声。だがそんな些細なことを気にする余裕は高尾には無かった。
当然だ。
所謂キスなんてものを黒子がしでかしたのだから。
高尾がしたくてもできなかったものを、あっさりと決めたのだこの男は。
それも、そういう間柄ではない筈の高尾とだ。
友人の友人という関係から友人同士には進展しているとは思っているが、いくら自分が望んでいたとしてもまだそこまでの関係ではなかった筈だ。
だからさっき、知らない女と話して笑っていた黒子に嫉妬して、殆ど無理やり引き離して、壁際に追い詰めて、衝動的に唇を奪ってやろうとしていたのに。
何故自分がされたのか訳が分からない。
「違ったならすみません」
「あ、いや、え?」
未だに混乱している自分に、黒子は男前にも堂々と言ってのける。
「でも、ボクはそういう意味で君が好きなので、期待させるような行動はよしてください。意味、わかりますよね?」
こくこくと頷くことしかできない自分の脇をするりと抜けて、黒子はオレの心臓を止めにかかった。
「忘れてもいいですよ。忘れられなければ、ボクを避けてもいい。でも、良い機会なので言わせてください」
真っ直ぐ、ひたすら真摯な瞳を向けて、
「好きです。付き合ってください」
返事は、まだしてない。