携帯電話の話すりー

 

 

**あなたなら、どうする?3

 

 ゼロスの赤い携帯電話。
 前回のチャレンジから度々触らせて貰っては、ロックの解除に奮闘していたロイドは最終手段に乗り出していた。
 ズバリ、0000から9999まで順に全て入力するという地道かつ確実な作業だ。
 考えるのに飽きたというか、思い付くものが少なすぎたと言うか……。
 とにもかくにも始めたその地道な作業は一日で終わるはずもなく、幾日も経った。
 そしてこの日、今この時。それが遂に終わりを迎えようとしている。

「9993……999、4……」

 長かったこの作業もようやく終わると思えば心が少しは軽くなる。
 何度も挫折しかけた自分を励ますゼロスの声援に苛立ちながらも頑張ったぜオレっ。
 ロイドはまだやり遂げてもいないのに既に達成感に似たものを感じていた。

「……95、9996」
「あ、ロイド君」

 もう少し、あと少し……と、集中しているロイドの耳には届いているかどうか怪しかったが、ゼロスは言った。

「そういやこないだオレ、ロックナンバー変えたわ」
「9997ー……きゅぅ…………は?」

 聞こえたらしい。
 あからさまに目で、もう一回言えと言っているロイドに向かってゼロスはまったく同じ台詞を繰り返した。

「こないだオレ、ロックナンバー変えたわ」

 ぱちぱちぱちと三度瞬くと、ロイドはぽかんと口を開けた。

「…………いつ?」
「えーと、だいたい一週間くらい前」

 沈黙。
 次いで、

「ぁ……アホ――――っ!!!!」

 絶叫。
 咄嗟に耳を塞いだが頭に響いてキンキンする。

「ごめんごめん」
「ごめんで済んだらオレの努力はどうなるんだよ!!」

 毎日なんて会えないものだし、会っても他の事をしていたりすることがあるというかその方が多い中で、少しずつ攻略していっていたものが途中からまっさらにクリアされてたなんて聞いてない。
 唸り声を上げながら今にも噛みついてきそうなロイドにゼロスは笑った。

「そんなに怒んないでよ〜。教えてあげるからさ」
「えっ?」
「ただし、こないだも言ったけど、中身は絶対になんにも消すなよ?」

 ゼロスは念を押すと手招きした。

「耳貸して」
「ん?」
「……………」

 耳元で、内緒話でもするかのように囁かれた言葉は本当に小さかったけれども、ロイドには聞き取れた。

「わかった?」

 ゼロスはにこりとロイドに笑いかけたがロイドの手は動かなかった。
 代わりに、目に見えてわかるほどその頬を赤く染めていく。

「ちなみにね、最初が付き合い始めた日で次が初デートの日。その次がロイド君に初めてプレゼント貰った日でそれから初キッスした日でしょ?そんでもって――」
「わかったっ!わかったからっ!!」

 慌てて止めに入ったロイドはその一声を張り上げただけでぜいぜいと息切れた。

「で、開けないの?」
「……やる」

 ニヤニヤと笑うゼロスの視線から逃れるようにロイドは携帯に意味もなく顔を近付け集中することにした。
 ポチポチ、ポチ、ポチ。
 鍵となる割りと記憶新しい日付を入力すると、ロックが解除されたというメッセージが現れた。
 よしっ、と意気込んで先ずはメールボックスを開いたロイド。
 後ろからゼロスが抱きすくめながら覗きこんできているが、気にせず中を見る。
 ――専用と言うだけあって、見事にロイドとのやり取りしか履歴に残っていない。
 しかし不思議なのはたまに保護の掛けられたメールがあることだ。

「なんで保護してるんだ?」
「だって、ハニーったらたまにしか言ってくれないんだもん」
「?」

 気になって中を更に開いてみて、固まった。
 確かに、ほんのたまにしかメールでも、口でも言って無いことだった。

「……これ、全部?」
「全部」

 語尾にハートが飛んだのは恐らく気のせいではない。
 くらくらしそうな頭を振り、気を取り直してデータフォルダに飛ぶ。

「絶対消さないでね」

 改めて念を押されて、期待にも似た妙ななにかにドキドキしながら、ロイドはセンターキーを押した。
 全データは四百以上ある。
その半数を占めていたのはフォトフォルダ。
 開いてロイドは絶句した。
 全部、ロイドの写真だ。
 顔だけのも有れば全身のもある。
 見たことのあるもの、撮って貰った記憶のあるものがあれば、まったく撮られた記憶の無いものもある。
 ……というか、着替えの時の写真まであるってどういうことだろう。
 やっぱりそれも撮られた覚えはない。

「……ゼロス」
「うん?」
「後で、こういうの、全部消しとけよ」

 一歩間違えたらどころか、既に危ない線を渡っていることに気づいていないゼロスは、ぎゅっと愛しの人を抱き締めて笑った。

「い、や」

 だって、これなら会えないとき寂しくないでしょ?
 そう悪びれもなく言った恋人に、ロイドはどうすればいいのかと、腕の中で暫くの間真剣に悩んだ。