続いてるわけではないです
**平和である3
「って」
指から徐々に赤が盛り上がっていく。
彫り物をしていたロイドは一旦手を止めた。「うぁー。やっべぇっ」
なにがやばいって、小刀を扱う時の注意点やらなにやらを叩き込まれて幾数年なのにも関わらず、こうして初歩的なミスをしてしまったことだ。
きっと師であり養父であるダイクの雷が落ちると瞬間的に思ったのだ。
もちろんこのオゼットにダイクは居るわけもなく、再会したときに話さなければ何事もないことだ。
そんな「やっべぇ」という言葉だけをたまたま近くにいたしいなは聞き、何事かとロイドの手を窺った。「どうしたんだいロイ……っ!ちょっ、なにしてんだいあんた!!」
「え?あ、しいな」ロイドが振り向いた拍子にぽたりと雫が落ちた。
「血っ!!血ィでてる!!!!!!」
あたふたとするしいなに思わず吹き出したら怒られた。
「なに笑ってんだい!!!!!!」
「ごめんごめん。でも大丈夫。舐めとけば直るって」手を振ったらタラリと指を伝って落ちた。
「けっ、けっこう深いんじゃないのかい?その傷……」
「大丈夫大丈夫!」
「どーしたのよ二人とも……ってロイドその怪我どうしたんだよ!!」騒いでいる二人が気になり寄ってきたゼロスは、ロイドの手から流れる血を見つけ普段はなかなか見せない真顔で詰め寄った。
「うわっ」
「ファーストエイドファーストエイドファーストエイド!!!!」
「ストップストップ!!そんなんしなくても平気だって!!」あまりの剣幕にロイドまで声を張り上げた。
治癒術のおかげで傷は塞がったけれどしいなもゼロスもオロオロとロイドの様子を窺った。「ほんとにだいじょぶかい?」「無茶とか無理とかするなよ」
「大丈夫っ、つか無理とかしてねぇからっ!!」ただ彫り物してただけでこの騒ぎ。
なんだか彫る気も失せてしまったロイドは道具をしまった。
実はさっきからいい匂いがしているのだ。
たぶんもうすぐ昼飯の時間だ。「そろそろ時間だよな?」
「え?なんの……ああ、そうだねぇ」腹に手を当ててロイドが言えば、しいなもそういえばと言った。
「まさか、ロイド君ったらこの匂いに気を取られちゃったわけ?」
「ぅぐっ」ゼロスに図星を指れて息をつまらせたロイドはあははとぎこちなく笑った。
「ぁ、ははは……悪い。みんなには言わないどいてくれ」
みんなとは主にコレットを始めとするシルヴァラントの人たちだろう。
しいなとゼロスは軽く返事を返した。「はいよ」
「へいへい」
「みんなー、ご飯だよー……ってどうしたのさ。そんなところに固まって……」
「なんでもないよっ」呼びに来たジーニアスの肩を叩いてロイドは我先にと走り出した。
「あっ、ちょっとロイド!」
「あたしも行こうかねぇ」
「オレ様もお腹減ったー」呆けている間に横をすり抜けていった二人の背を数秒眺めていたジーニアスも、我に帰り後を追いかけた。
「まっ、待ってよーっ!!」
今日の一行も、なんだかんだで平和である。