現代パラレル
花屋と青年




**バイト、始めます




 花の香りがふわりと鼻を擽った。

「いい匂いだな」

 甘い花の香りにそう言うと、腕に抱えたその花を、能面美人の花屋(しかし男)がずいとこっちに寄越した。

「……」
「……、男に花なんか貰っても嬉しくねぇんだけど」

 いや、正確に言えば女から貰っても嬉しくもなんともないとは思うが相手が男なら尚更と言う意味だ。
 そこまでわかったかどうかは知らないが、花屋は(外見的な意味で)意外すぎるほど低い声で「すまん」と言った。

「気に入ったのならと思ったのだが……」
「生憎花を愛でるような趣味は持ち合わせていないんでね」

 立ち寄ったのは偶々の偶然に近いものがある。
 普段からわりと使っている道で、見知らぬこの店を見つけたからただ覗いただけだ。

「だいたいそれ、商品じゃないのか?」

 押し返した花はすぐ脇に置いてある筒上の花瓶の様なものに入っているのと同じだ。
 筒には一本500円と書いてある。
 ……些か高すぎやしないだろうか?
 花の定価なんかわからないが、花一本で500円なら代わりに一食食べた方が断然特だと思う。

「開店記念だ」
「開店記念、ねぇ……」

 開店記念で500円もする花をただ店先を覗いただけのひやかしに数十本寄越して、赤字の心配はしなくていいのか。オレはする。

「アンタ、こんなんでやってけんの?」

 要らぬお節介だろうがつい言葉にしてしまった。
 花屋はパチパチと目を瞬くと、無表情のままほんの少し首を傾けた。

「……こんなん、とは?」
「……」



 たぶん、それが切っ掛け。