どこか未満な二人



**つい、抑えられなくて




「アンタだって人間だろ。食わなきゃ死ぬ、ちゃんと食え」
「一日二日食わずにいても水分と睡眠さえ取れば死なない」
「不健康だ」

 眉を吊り上げたユーリだが、デュークは尚も食事は要らないと主張した。

「食べたくなったら勿論食べる。今はその必要を感じない」
「そりゃアンタの空腹中枢が麻痺してんだ」
「……人の事をいえた義理か」

 今度はデューク眉を吊り上げた。

「お前こそ、食費軽減と言って過去に絶食期間を設けたという話を聞いたぞ」
「誰だそんなこと言ったの」
「黙秘権を行使する」

 ツンと言ったデュークにユーリは作戦を変えた。

「……心配なんだよ」

 眉をこれ見よがしに下げてそれらしい表情を作る。

「デュークが倒れたりでもしたら、……オレっ」

 徐々に顔を俯けて、拳を握ればかなりそれっぽいだろう。

「ユーリ……」

 想定通りの変わった声色に、ユーリは内心してやったりとガッツポーズをとった。が、

「安心しろ、倒れる前にベッドには行く」
「そうじゃないだろボケっ!」

 思わず一喝してしまったユーリはゴホンとわざとらしく咳払いした。

「ぁ゛ー……、だいたい、アンタ人間のくせに欲無さすぎ。聖人かっての」
「有るから困っていると言うのに……」
「なんか言ったか?」
「気のせいだろう」

 ともかく、とデュークは話題を切り上げ始めた。

「今は要らん。耐えられなくなったら自分で用意する」
「耐える前に普通食べるんだよ……」

 ついに頭を抱えてしまった。
 いったいなにをそんなに頑なに拒むのか理解できない。

「アンタなぁ、人間なんだからちゃんと食えって。ホントに倒れるぞ」

 冗談抜きに、心配していた。
 外見的に確かに食の細そうなイメージがあるにしたって食べなさすぎだ。
 人間は活動するのに必要なエネルギーを食事で補給しているのだ。

「勿論、理解している。だから、必要と感じれば取る」
「今っ、食べる時間なんだよ、普通っ!」

 正午を過ぎた時計を指して言う。

「だいたいアンタ、朝も食べてないだろ!」
「まだ食べたくない」

 ぷいっと、急にただを捏ねる子供のようにソッポを向いてそんなことを言う年上に、ふと何か嫌な予感が過った。
 いや、まさかな。思いつつも何故か不安は増すばかり。

「……おい」
「……」
「アンタ、最後に飯食ったの何時だ?」

 ………………………………。
 プツン。
 キレた。

「ばっっっかじゃねーのっ!?」
「……私の勝手だろう」
「それにしたってねぇーよっ!」

 沸き上がったあまりの怒りに目端に涙まで浮かんできた。

「なんで食わねぇんだよ!アンタ、人間なんだぞっ、死ぬんだぞっ!」
「たったの数日で死ぬわけがなかろう」
「数日っ!?」

 少なくとも既に丸一日分の食事を抜いているわけだ。

「別に食費に困ってるわけでも食材に困っているわけでも無いくせにっ、そんなに食ってないのか!」
「……食べたくない」
「……アンタ、そんなに食欲無かったっけ?」

 力一杯叫んで少し冷めた頭で、ふと以前を思い返してみる。
 確か前は少なくとも三食きっちりとっていたと思う。

「……どっか調子わりぃの?」

 流石に変だと発言すれば、デュークは目を泳がせた。

「風邪か?」
「っ!」

 額に手を当てようと腕を伸ばしたが、払われた。
 驚きに目を見張るユーリに、デュークもまた目を見開き驚きに表情を染めた。

「ぁ……、いや、これは……違、……すまない」

 何が起きたのかと、呆然と見詰めてくるユーリに、とうとうデュークは観念した。

「――人の三大欲求を知っているか」
「……はぇっ、え、まぁ?」

 なにを突然と顔に書いたユーリに構わずデュークは続けた。

「食欲睡眠欲性欲、生存本能から成るこの内一つは一生の内に発現しなくとも正常と判断される」
「はあ……」

 よくわからないと首を傾げるユーリ。

「その理由はやはり生存本能から来ている――というわけだ。だから、要らん」
「…………いや、わけわかんねぇから」
「……察しろ」

 無茶な事をっ!

「もーちょいヒント」

 くれなきゃ無理矢理食わせるぞと意気込んでいると、デュークが一つ嘆息を溢した。

「……先の食欲睡眠欲は、自身の生存確率を上げるため必要不可欠であり、摂取しなくては死に至る可能性がある。が、性欲に関しては生殖活動から自身の分身を生み出し、自身の代わりに長く後世に生かせる為に生じる欲求だ。食事や睡眠が充分に摂れていなければ食事や睡眠を優先としその衝動は起きにくくなる」
「……はあ……で、つまり?」

 どこからどこまでが前振りなんだかもわからないそれには首を傾げるしかない。
 ここまで話したのだからちゃんと説明しろと詰め寄った。

「つまり、……まぁ、そう言うことだ」
「どういうことだよ」
「聞くな」
「わかんないって」
「少しは考えろ」
「オレはアンタの為を思って言ってんだぞ!」
「別のことに気を回してくれ」
「誤魔化すなっ、はっきり言えって!」

 痺れを切らしたのか遂にデュークが怒声ともとれる大声を上げた。


「っお前に欲情しない為だとでも言えば満足かっ!」


 その声は室内で反響しよく響いた。
 響いて、しまった。

「……」
「……」
「……」
「……」


 …………………………………。


「ぁ、……ぃや、その、……ゎ、わりぃ……」
「……いや、なんだ……その……、私こそ……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 ――二人が動き出すのは暫く先の話。