現代パラレルバイト、始めます設定<
花屋と青年と空気おっさん
**バイト、やってます
店先でしゃがみこみ、鉢に値札を付けていると後ろから声を掛けられた。
「すっ、みっませ〜ん」
やけに弾んだ男の声にいぶかしみながらも立ち上がり振り向けば、ボサボサ頭のおっさんがいた。
「なんっすか?」
鉢の前で作業してるから店員だと思って声を掛けてきたのだろうおっさんに応えると、おっさんは何故か目を丸くして潰れた声を出した。
「え゛」
「は?」
予想外の反応に、オレも思わず接客業にあるまじき反応を返してしまった。
「ぇー……ぅ゛ー……?」
意味のわからない奇妙な音を出しながらおっさんはオレを見上げると、頭……というか視線をを徐々に下げた。
そして再び顔を見合わせておっさんから出たのは、溜め息。
「……なんっすか」
「うん、ごめんね青年。ごめん。おっさんのガラスのハートにヒビが入っただけだからおっさんを許してあげて」
「は?」
よくわからない口上を連ねるおっさんは最初の弾んだ声が嘘のように消沈している。
いったいこの短時間の間になにがあったのやら不思議すぎる。
ふぅー……っと再び溜め息を吐くと気持ちを切り替えたのかおっさんは改めてオレと向き合った。
「青年はバイト君なの?」
「ああそぅおわっ!?」
突然後ろに手を引かれて、肯定の言葉が驚きに変わった。
「お前は中に入っていろ」
店主がいつの間にかいた。
二重に驚くが、店主はオレを押し退けるようにおっさんの前に進み出た。
「冷やかしなら帰れ」
「冷たっ!せっかくなんか買っていってあげようと思ったのに……」
「ならばこの花でも持っていけ。開店記念で特別無料でやる。用は済んだな、とっとと失せろ」
「買っていくのが目的なんだけどそこは無視ですかい?って、この花折れてますけど!」
「知らん、帰れ」
「ひどっ」
確かに酷い扱いだ。
店主の表情筋は相変わらず死んでいるが、オレや他の客に対する態度と比べれば一目瞭然。
この、知り合いらしいおっさんのこと、店主はよく思ってないらしい。
確かに、見るからにちゃらんぽらんしてるこのおっさんと堅物の店主はイロイロと合わなそうだ。
「青年も酷いと思わない?」
ふと話を振られると同時に店主がまるでオレを背に隠すように少し移動した。
「これに振るな」
しかし、「これ」。
「……これとはなんだこれとは」
「これ」と称されたことにカチンときた自分は心が狭いのだろうかと思いつつ、オレは名乗り上げた。
「オレにはユーリって名前がちゃんとある」
――と、言いながら今思い出したが、そう言えばまだ店主とも自己紹介をしていないことに気付いた。
オレも店主の名前を知らない。
店主もその事に気付いたのだろうかなんなのか、目を丸くしている。
「……うっ、そぉ……」
なぜだかおっさんも目を丸くしているが、それには触れなかった。
「……今更だけど、アンタの名前は?」
それよりもと店主に向かって言うと、おっさんがウザくも食い付いた。
「ぇえっ、あんたら自己紹介まだだったの?面接とかなんとかしてないの?」
「黙れ失せろ」
「因みにオレ様はレイヴンね。よろしく〜」
間髪無く店主はおっさんを両断したが、全くおっさんはめげてない。
おそらくこれが二人の通常のやり取りなんだろう。
なんで知り合いなんだかさっぱりだ。
「……デュークだ」
店主は店主でおっさんを無視して静かに言った。
「デューク……か」
口にして、繰り返す店主の名は不思議としっくりくる。
何度も頭の中で反芻して、脳にこれでもかとインプットさせてからオレは店主と目を合わせた。
「これからもよろしくな、デューク」
「……ああ」
バイトを始めて幾日も経っている今更の挨拶に、店主は短く返してくれた。
たぶん、これが始まり。