パラレル


監禁されてるユーリと
水晶を探すデューク

前後編になればいいのにな…


おけですか?







**陰る月の下、輝く月に願いを




 カタリと音がした。
 不思議に思った青年が音のした方を見やると、ありえないものを見て固まった。
 時刻が夜半を回っていたせいもあるのだろうがそれはおよそ現実のものだと思えぬものだった。
 暗いはずの室内が仄かに明るく見える。
 透き通るような白い肌。
 月の光に淡く光る銀髪。
 手も足も、胴も顔も、人の形をした芸術の塊で、同じ人とは思えないものだった。
 例えばそう、

「月の精……とか?」

 ポソリと口から出たふぁんしーな言葉に自分で笑いながら、青年の存在に気付いたらしい月の精の如く美しい佳人に、青年は声をかけた。

「よう。こんなところまでご苦労さん。アンタ、こんなところに何の用だ?」

 こんなところと言うのは、地上から軽く数十メートル離れた、もはや塔と呼ぶべき建物のほぼ頂上の一室。
 在るものと言えば簡素な寝台一つと小さなサイドデスクが一つの、酷く殺風景な部屋だ。
 唯一切り取られた窓の前に立つ粛々とした存在は青年に目を向けた。
 ルビーのような紅い目だ。

「ここに、珍しい宝石があると聞いて来た」

 低く響く声が答えたのに、青年は肩をすくめた。
 今更気付いたことだが相手は背の高い男で、しかも明かりを持っていた。
 部屋が明るく見えるはずだ。

「悪いけど、ここにはオレしか居ないし、物も見ての通りこの何の仕掛けもねぇ固いベッドと、引き出しもないちっせぇ机しか無いぜ」
「……」

 ぐるりと確かに他には何もない部屋を見渡した銀髪の男は、最後に青年と目を合わせた。
 ルビーのような紅と、アメジストのような紫紺が交わる。

「……一応、探させてもらおうか」
「どーぞ」

 楽しげに言った青年はベッドに無造作に腰をかけ男を促した。
 早速と部屋を歩き始めた男に青年は問いかける。

「アンタ、ホントに人間か?」
「……」
「どうやってココまで来たんだ?流石によじ登ってなんかこんなとこ来れないだろ」
「……」
「珍しい宝石って、なんでそんなもの探してるんだ?どんなものか知ってるのか?」
「……」
「ココに珍しい宝石があるってのは、誰から聞いたんだ?」
「……」
「少しくらい付き合えよ。見ての通り、ここは退屈なんだ」
「ならば何故こんなところにいる?」

 一通り壁を眺めては叩き。
 床を眺めては踏み鳴らしていた男が青年に向いた。

「オレだって好きでこんなとこにいるわけじゃない」
「何故だ?」
「開かないんだよ」

 くいっと、顎で指された方を見れば扉が一つ。

「向こうから鍵が掛かってる」
「何故?」

 男の問いに、青年は肩をまたすくめた。

「……この棟の持ち主が悪趣味持ちの変態でね」
「……ああ」
「納得すんなよ」

 顔を眺めて言った男に、青年は男がつい納得の声を上げてしまったのも無理のないその顔を歪めた。

「で、アンタはどうすんの?」

 ――返答は無く、青年は別の言葉を重ねた。

「……さっきも聞いたけど、アンタの探してる宝石ってどんなのだ?」
「……」

 無言のままの男を、今度はじっと青年が見詰める。
 沈黙は長くなかった。

「……水晶だ」
「水晶?」

 男は一つ頷いた。

「虹色に輝く、一抱えほどあるものだ」
「そりゃ確かに珍しいな」

 感心したように呟いた青年はしかし頭を振った。

「悪い。それはわかんねぇや」
「そうか……」

 肩を落とした男に、青年は「でも」と続けた。

「もしかしたら知ってるかも」
「……どういう意味だ」

 男は全く逆の意味を持つ台詞に眉根を寄せたが青年は気にしない。
 ただ思い付いたことを言った。

「ここの持ち主。珍しいもんが病的に好きだからな。なんか情報くらい持ってるんじゃねぇか?」
「……」
「良けりゃ、オレが聞いておいてやるよ」
「……お前が?」
「ああ」

 軽く頷いた青年は代わりにと条件を持ち出した。

「明日もここに来てくれるなら、だけどな」
「それは……」

 当たり前ではないだろうか。
 わざわざ口約束を取り付けなかろうと、結局結果を聞きに来なければならないのだから、

「条件とは、意味が違うのではないか?」
「細かいこた気にすんな」

 ケラケラと楽し気に笑う青年は楽し気に続けた。

「で、どうする?」
「では頼もう」

 やけにあっさり纏まった話に青年は再び声を立てて笑った。

「アンタ、面白いな。外はお前みたいなやつばっかなのか?」
「お前と私の感性が違う限り、違うとしか答えられんな」
「はははっ」

 どこが面白いのかと真剣に男が悩み始め、笑う青年を訝しんでいるとふと目があった。

「ユーリだ」
「……デューク」

 突然発せられた音が名を示しているものだと気付いたのは手を差し伸べられているからだったが、男はその手を取る気はなかった。

「……ま、なんにせよ、よろしくな」

 ぷらりと行き場の無くなった手を垂らして青年が言ったのにも男は頷かなかった。
 すっ、と青年に背中を向けて窓枠に手を掛ける。

「馴れ合うつもりはない」

 それだけを言い残し、飛び降りた。

「なっ!?」

 ひらりと身を空に投げた男に驚き青年は窓に駆け寄ったが、突風が吹き咄嗟に目を塞ぎ立ち竦んだ。
 バタバタ、ガタガタと部屋の中の物が音を立てる。
 三秒も経っていたのかいなかったのか、風が止み、慌てて窓の外に顔を出したが広がるのは闇。
 青年の目は暗闇でも効くもので、男のあの特徴的な銀髪ならばこの闇の中でも捉えられると思ったが見えない。
 思ったよりも塔が高いせいだろうかとも一瞬考えたが違うだろう。
 青年の目には巡回する豆のような塔の私兵も見えた。
 では何処に――。

「……月の精、とか?」

 まさか空にでも帰ったのかと、思い付いた非現実的な事に青年は一人で暫く笑い続けた。