**写真
「どうしたんだ、それ」 珍しいものをデュークは持っていた。 「買った」 手のひらサイズの小型カメラ。
右手に乗せて見たり、左手に乗せて見たり、両手に持って見たり、いろんな角度からそれを見ている。 「……そういえば、写真なんて撮ったこと無かったな」 二人でいて、今まで一度もカメラだとか写真だとかの話題が出てこなかったし、撮ったことも無かったなと思っていると、視界が一瞬真っ白になった。
カシャ。
カメラのシャッターらしき音が鳴った。
さっきのはフラッシュだろうか。 目がちかちかする。 「いきなりなんだよ」 思ったとおりカメラを構えているデュークは、質問には答えずに「笑え」と言ってきた。 「なんで」 当然の疑問は適当に返された。 「いいから」 レンズから少しだけ視線を離しそう言うと、デュークはレンズ越しにオレを見る。 「……」
「早く笑え」
「……あのなぁ」
「、む」 ずいっと離れていた距離を詰めてデュークの手に収まっていたカメラをむしり取った。 「何をする」
「それはこっちの台詞だ」
「単にお前を撮ろうと思っただけだ」
「そういうのは先に言うんだよ」
「それもそうだな」 デュークは一つ頷くと、改めて言った。 「撮っていいか?」
「それより先に言うことあるだろ」 首をかしげたデュークにオレは言ってやった。 「一緒に撮ろうぜ、デューク」
** デュークはカメラが気に入ったらしい。 「いい加減、あきねぇの?」 「そうだな」 言いながらカシャッとまたシャッター音。 レンズは当然のようにオレに向いている。 「はぁ……」 ため息を吐いた瞬間にもカシャッと鳴った。 何枚か二人で写真を撮ったり、デュークの写真も撮った。 オレは結構満足したのだが、デュークはやっぱりオレの写真もまだ欲しいと言って改めて「撮ってもいいか」と聞いてきた。 それを断るのも理由が無く、少しくらいならいいかと許可したのだが、それから一向にシャッター音が止まない。 「む?」 と、思っていたシャッター音が止んだ。 「ようやく終わったか」 思わず口にしたのだが、デュークはカメラを手に首を捻っている。 「壊れたのか?」 この台詞はまだ撮る気だったのだろうか。 「フィルムが無くなったんだろ」 「ああ、成る程」 短時間のうちに良く使い切ったなと変に感心しているとデュークはさらりと続けて言った。 「なら買ってこないと」 「まだ撮る気か」 「当然だ」 「もう充分だろ」 「いや、足りん」 確かにまだオレしかデュークは撮っていないのだから、物足りなくはあるかもしれない。 そう思って、だったら使い切る前に外にでも行けばよかったのにと言ったのにデュークはどうしてもオレを巻き込みたいらしい。 「もう少し付き合ってもらうぞ」 デュークはカメラがとても気に入ったようだ。
** あれからすぐに出かけ、本当にフイルムを買ってきたデュークはカシャカシャと飽きずにシャッターを押している。 いちいちフラッシュがチカチカと眩しい。 「つーか、撮りすぎ」 「むぅ……」 レンズを手で覆うと、不満げに目で訴えてくるデューク。 「フイルムがもったいねぇだろ」 「安心しろ、買ってきた」 「そういう意味じゃねぇ」 そりゃ箱買いしてきたらいくら撮ったっていいとは思わないでもないがそういう話ではない。 カメラから顔を離したデュークを見て、オレも手を離した。 「だいたい、オレばっか撮ってどうする」 他に撮る物あるだろう。 二人ではもう撮ったからいいとして、他にも色々、例えば風景を撮るとかなんとか色々あるだろう。 カメラを手にしてからデュークがオレ以外にカメラを向けた覚えがない。 「まだ撮ってない」 と言いながらカシャっとまた音が鳴ってピカッと光る。 「……今撮っただろ」 カシャ。 「撮ってない」 カシャ。 「……」 カシャ。 「……それのどこが撮ってないって言うんだよ」 最早呆れて言えば、デュークはまたカシャっとシャッターを切った。 「まだ、ユーリが笑ったところを撮ってない」 「……フイルムがもったいねぇだろ」 「安心しろ、買ってきた」 「そういう意味じゃねぇ」 ほとんど同じ問答にため息をつけばまた『カシャ』。 いい加減にと言う前に、デュークが言った。 「一分一秒惜しいのだから邪魔するな。一々可愛いお前が悪い」