**そんな今日はバレンタインデー

 

「お前の名前ってあれだな。バレンタインに似てるな」
「……なんだそれは」

 いつ出会っても能面のデュークの本名、デューク・バンタレイ。
 初めて聞いたときなにやら引っ掛かるなと思ったのがそれだった。

「好きなやつに菓子とか花を送る日だよ」

 年に一度のその日は、誕生日、クリスマス、ハロウィンに次いでユーリの好きな日だった。
 何故って理由は明確だ。
 甘いものが食べられる。
 特にバレンタインデーはチョコレートがある。
 砂糖菓子と違いチョコなどの甘味は元より高級品の部類で、下町ではなかなか手に入らないものだけれども、毎年必ず箒星の人から商品の一部であろう小さくとも一欠らのチョコを渡された。
 そのお返しにと花の一本を渡しに行ったら、子供の癖に生意気だと初恋の人に笑われ、かなりショックを受けたのを覚えている。
 それでも懲りずに毎年花を送っていた自分は一途と言うかなんというか……。
 今ではただの笑い話だ。
そういえば、フレンにも花を持っていったら倍以上の花を投げつけられて悔しい思いをしたことがあったなと思い出す。
 懐かしいなぁと、思い出に浸るユーリの唇に、ふにゅっと柔らかいものがあたった。

「っ!こらデュークっ。なにすんだよ」

 どうもキスという行為が好きらしいデュークに、オレはそんな趣味はないと、数えるのも嫌になったいつもの文句を言う。

「それで、その日は具体的にいつだ?」
「さあな。……はぁ」

 あんまりにも恒例過ぎるやり取りに自分も向こうも慣れてきているのか、文句はただの挨拶のようになってしまった今日この頃にため息を一つ吐いた。

「確か、今ぐらいの時期だったと思うぜ」
「知らないのか」
「寒い日ってのは覚えてる」

 幼い頃から、その日だと知るのは宿屋のおねぇさん(今はもう女将さんだが)にチョコを受け取った後なのだ。
 自分が渡す分はそこらから適当に拝借していたから、未だかつてその日を意識したことはない。

「そうか……」
「どうした?」

 珍しくしゅんと萎れた様子を見せるデューク。
 思わず慰めの意味を込めて白い髪を梳いた。
 多少指に絡まるもの、さらりと癖のある白が揺れた。

「いや……。もしその日がわかれば、お前になにか馳走してやろうかと思っただけだ」
「そんだけ?」
「ああ」

 なんともまぁくだらない。と心の中でひそりと呟いた。

「別に今だっていいだろ?大歓迎だ」

 柔らかな髪を弄りながら言えばふいにその手を掴まれた。

「そういった行事はその日だからこそというものが有るのではないか?」
「なにお前、そういうの気にすんの?」

 気にしないタイプだと思ってたと悪びれもなく言えばふっと笑われた。

「確かに、そうだな。だが……」
「ぉわっ」

 くいっと手を引かれてデュークの口許へと押し付けられた。

「な゛っ!!」

 指先に触れた柔らかい感触に慌てて手を引こうとしたが意外に強い力で固定されていてビクともしない。
 それでも抵抗していないと気がすまなく、ぐいぐいと己に引き寄せようとしたが、瞬間ぞわりと身が震えて力が抜けた。

「ぎゃっ!!!!」

 爪先をはむりとくわえられ、生暖かい舌が爪の間をなぞった。
 指先に伝う痺れに近い、未知の感覚に顔が知らずに紅潮した。
 ぱっと手が解放され勢いよく手を自分の胸元へ引き寄せたが、この手を握ることもなにかするのも躊躇われて不自然に固まった。

「お前となら、そういった些細なことでも気に掛けたくなる」

 いつもと変わらない能面なはずなのに、赤い目が妙に愉しげに揺れている気がしてなんだか無性に恥ずかしくなった。