付き合ってない 知り合い関係
青年の名前を知りたいデューク









**聞きたいことはいくつかあるけれど




 ああ、また言えなかった。
 もう何度目かなんて数えるのも馬鹿らしい。
 たった三回だ。
 彼と、星喰みが空から消えてから彼と偶然に出会った回数は数えて三回。
 一年半で三回目。
 たった一言なのに、言えずにいる。

「じゃあ、またなデューク」
「……ああ、」

 また。
 「また」という確証などないのにそういう彼。
 それにどうして私は応えるのか。
 それよりも言わなければいけないことがあるのに。
 彼の遠ざかる背中を見て悶々とする。

「あ、そうだ」

 不意に彼が振り向き、「なあ」と声を掛けてきた。
 今までにない展開に動揺する自分の頭は回らない。

「オレ、大抵ダングレストにいるから」
「な、に……?」
「なんか用があれば来いよ、待ってるからさ」
「ま、……」
「そんだけ。じゃあな」
「……ぁ、」

 ――なんというマイペース。
 折角の機会を再び失ってしまい呆然とする。
 いやその前に、いや、後か、いや、なんだ。
 ダングレストがなんだと言った?
 彼がいる?来い?用があったら?待ってる?
 なんとか思考をまとめて反芻し、新たな疑問が続々と浮上する。
 用がなければ会いに行ってはいけないのか、来いというのは来てほしいという意味か、いやそれはきっと考えすぎだ、しかし待っているとはなんだ、それは行った方が喜ばれるということか、恐らく考えすぎだがそうとも取れる物言いだが、その前に大抵という言い方はつまり居ないときもあるということで、そもそも彼に会うためだけにダングレストに行くと考える自分はなにかおかしいのではないか。

「……いったい、何を考えているんだ」

 馬鹿らしい。
 名前を知らない青年の名前を知りたいとは思うのは普通だろうが、用もないのに会いたいなどと考えるのは明らかにおかしいだろう。
 いや、用がないわけではない。
 自分は彼の名前を知りたいのだ。
 だからきっとダングレストへ行っても問題はない。
 何度か、何度も顔を合わせて、それなりに会話もしているのに、相手は自分の名前を知っていて自分は相手の名前を知らないのだから自分に知る権利はあるし、それが彼に対する用にもなるだろう。
 しかしそんな些細なことで訪ねるものだろうか。
 そう考えると否としか答えが出ない。
 なにか、なにかないのか。
 いや別に、また今日のように、今までのように偶然出会ったときにでも聞けばいい。
 それがいい。
 そうに決まっている。
 ああしかしなぜこんなにも会いたいと思うのだろうか。
 今さっき出会い話していたばかりだというのに、今からダングレストに向かっても彼は居ないだろうにどうしてこんなにも行きたくなるのか。
 きっとなにか自分が忘れている用事があるに違いない、ダングレストに。
 どうせ彼は居ないのだから、今から行って、彼に不思議と思われることもないだろう。
 しかし今行ってしまったら次はいつ行けばいい。
 今用を済ませてしまったら、暫く行く用がなくなってしまうではないか。
 それは困る。
 いや、別に困りはしないだろう。彼に会えないだけで。
 いや、今日のようにいつものように偶然別の町で会うこともあるだろう。
 しかしダングレストで出会う確率を考えれば、と、なぜ彼の事ばかり考えるのか。
 自分の思考の中心に彼がいる気がして、世界が彼を中心に回っているかのようなありえない錯覚さえ感じ始めて、頭が沸いてくる。
 許容量を超えているのだ。
 やめよう。考えるのは。
 だからダングレストにも行かない。
 彼の事は忘れよう。
 どうせ忘れられはしないだろうが、名前も知らないのだ。
 元々知っていることだって少ない。
 ダングレストによくいるらしいということだって、今しがた知ったばかりだ。
 ………………………………ああ、そういえばダングレストの近くにはエアルクレーネがあったはず。
 そこの様子を見にでも行こうか。
 この間見たときは特に異常もなかったが、万一ということもある。
 そうしよう。それがいい。
 それで、帰りに少しダングレストで足を休めよう。
 そうしよう。それがいい。
 そしてもし、もし偶然に出会うことがあったら、その時は今度こそ言えばいい。

 お前の名を教えてくれ。

 音は口から出る前に再び溶けて消えた。