やまなしおちなし
記憶喪失ネタ
「Don't cry」とは全く違う設定 話
**依存からなる逃避
「待ってくださいっ!」
偶然の出会いに、金髪の青年は誰もが振り向く大声を上げて道行く人を呼び止めた。
誰もが足を止め、何事かと走る青年を窺い見る中、逸早く踵を返した銀髪の男がいた。
自分には関係ない。そう思ったのだろう。
両の手に抱えた、多量の食材を抱え直し足を踏み出した。
しかし、
「すみませんっ!」
「っ」
ぐいと肩を引かれて間もなく歩みを止めることになった。
仕方なく振り向いた男はこの無礼な行動に対して眉を寄せ、遠巻きに見ていたものでさえ小さく悲鳴を上げて一歩二歩と距離を置く鋭い視線で青年を見咎めたが、青年の目には入らないのか口早に言う。
「ユーリを知りませんか!」
「……ユーリ?」
首を傾げた男に、青年はああっと声を上げて再び謝った。
「すみませんっ、あの、いつも黒い服を着ていて、黒髪の長い、僕と同じくらいの、あの彼です」
「ああ……」
記憶を辿っているように、ぼんやりあらぬ方を見やりながら返事を返す男に構わず青年は状況を説明し、男に助力を願った。
「一昨日から姿が見えないんです。いつもフラフラと何処かに行くことはあっても次の日にはちゃんと帰って来たし、行き先はそれとなく伝えてくれるのにってカロルたちも心配していて……すみませんがもし見かけたら伝えてください。みんな心配していることと、早く帰ってくるようにって」
「……みんな?」
どこか視線と同じくぼんやりした男の言葉に、青年は力強く頷いた。
「はい。カロルもジュディスも。話を聞いたらエステリーゼ様も心配されるだろうし、レイヴンさんだって……」
「……」
「あっ、」
話の途中で踵を返した男。
随分と失礼な態度だが、青年は怒りもせずただ遠く離れていく背に声を掛けた。
「もし会ったらでいいんです。お願いしますね!」
元々、青年の知っているこの男は人と関わることを避けている。
青年は最初から男を当てにはしていなかった。
たまたま今日は街で会ったが、普段ならまず会うことの無いような人だ。
親友の行方を知るはずも、会うはずもないのだ。
それでも、一人でも多く友人の行方を尋ね聞きたかったのだ。
しかし、この青年の思惑は幸か不幸か外れていた。
大量の食材を抱え歩いていた男は街を離れると簡素なテントが張られ、火の焚けた野営地に着いた。
「クロ、」
枝に布を被せただけのようなテント。
実際それだけだったから本当にテントと呼んでいいのか怪しい限りだったが、男にとっては紛れもなくちゃんとしたテントだった。
そのテントからひょこりと顔を出したのは「黒」だった。
「おかえり、シロ」
黒い髪に黒っぽい瞳。
それから黒い服。
年格好は街にいた青年と同じくらいだろう。
「シロ」と呼ばれた男は勿論わかっていた。
街で会った青年が探しているのはこの「クロ」だと。
「シロ?」
「……」
「どうした?」
だから、言わなければいけない。
伝えるのが正解。
けれど、
「なんでも、ない……」
自分の事だって、街で出会った青年は知っていたようにも感じた。
「なんでもないんだ」
生きてきた記憶の殆どを失っている自分達は他人を頼った方がいいに決まっている。
だが、これ以上失うのは怖い。目を覚ました時、目の前にいた同じ境遇の青年を失うのが怖い。
「シロ……?」
シロはクロの背に腕を回した。
クロの温かい熱が身体に伝わる。
「クロ、」
クロの肩に顔を埋めながら、シロは祈るように願った。
「ずっと、一緒にいてくれ……」
小さく。
小さく口にしたそれに、応えるように暖かな腕が回された。