「ぁふっ、はぁ……はぁ……ぅ」
ぼぅとする頭はなかなか冴えない。
むしろ余計熱に浮かされている気がする。
ふいに、尻の窪みに圧迫感が襲う。「んっ、く」
強くは無いけれども、変な感じがしてきゅっとそこに力が入る。
まるで揉み解すかのようにそこを何度も押されて、その感覚に慣れた頃にはなにか別の感覚がじんわりとそこに広がった。「素質があったか……運がいいな」
滲む視界にぼんやりと浮かぶのは白い人影のようなもの。
否。人なんているわけがない。養父も出掛けてる家には、オレしかいないはずだ。
そういえば、猫はどこへ行ったのだろう。「あ、ぅわ……なに、ぃひっ」
思考は突然浮いた自分の腰と、先程から弄られていた窪み――肛門部に這うぬめりけのある、生暖かい感触によって掻き消された。
普通、そんなところにそんな特殊なものは当たらない。
未知の体験にぶるりと震える。「はっぅう……んっ」
次第にぴちゃぴちゃと水音が響き始めた頃、濡れた所が何故かじわじわと熱くなってきた。
――変だ。なんか変だ。
なにがどう変なのかはわからない。いや、どこもかしこも変なんだ。
でも、この変な感じは癖になる。「っあは……んぁ」
「頃合いか」
「……っぁ」ずっとそこに刺激を与えていたものがなくなり、切なさを熱を持って訴える身体。
むずむずとするそこへ、代わりに別の、もう少し固めのものが触れて、スプっと中に入ってきた。「ん、っふう……」
棒のようなものが中に押し入り、ゆっくりと外に出る。
本来、汚物を出すことしかしないそこになにかが埋め込められていくのは気持ち悪く感じたけれど、外に出ていくときは解放感に身が震えた。
全てが抜き取られると、逆に物足りなく感じる。
ピタリと出口に張り付いたそれは、今度はぐにぐにとそこだけを弄りそれ以上入ってこない。
じわじわと疼く熱が奥へと広がっていく。「あ……つい」
「どこが?」
「ぅ、あンっ」つぷりと中にまた何かが入った。
「あっ、はぁ、ぉっ……おく……あ、ついぃ……」
奥が熱い。
むず痒いようなもどかしさを訴えている。
少しづつ、ゆっくりと奥へ移動するそれは、さっきと同じ太さなのに、途中曲がったり中を押したりと自由に動いた。「はぁあ、あぅっん……ぁ……もっ、と」
ぐにぐにと中で蠢くそれは、何かを探しているかのようにゆっくりと進んでいく。
もっと、もう少し奥に早く触れて欲しいのに、なかなか進まないそれに焦れる。「は……んっ、ふぅ……はんんっあっ、ヒッ!!」
ビクンと一瞬身体が跳ねた。
奥へと進んだなにかが、一番熱いところを掠めた時だ。
むずむずとしていたそこに、実際触れられると身体というより脳が痺れた。
これ以上は怖い。
もう一度感じてみたい気もしたけれど、それ以上に怖い。
何かが壊される。決壊する。
まだ中にいるなにかがグニっと動いた。「や……っ」
もう動かないでいい。
これ以上は、ダメだ。
おかしくなる。
止めたくても身体は動いてくれないし、舌も上手く動かない。
そもそもなにをどう止めればいいのかわからない。「ここか?」
危惧していたように、それは躊躇いもなくじんじんと疼くそこを刺激した。
「っき、ぁあぁアアッ!!」
瞬間。
脳天を突き抜けるような痺れに、信じられないくらいイヤに甲高い声を出して叫んだ。
* *
「ぁ、?」
日の光が眩しい。
朝だ。
のろのろと上体を起こして時計を見ると昼近い。「う゛わー、よく寝たなぁ゛……?」
そういえば、いつ寝たのだろう。覚えてない。
ぼんやりする頭を振ったがなかなか冴えない。
まぁいいか、と考えることを投げ出してふと違和感に気付く。
真っ裸だ。しかもやたらベタつく――暑かったのだろうか。
寝間着どころか、下着さえつけてない。
酒でも飲んで寝たのだろうか?
それなら記憶が吹っ飛んでるのも納得できる。
それにしても、今までこんなになるまで飲んだことはないが……財布の中は大丈夫だろうか。
後で確認しよう。
とりあえず、喉が乾いた。
ひりひりと痛む喉を潤すためベッドから這い出るとまた別の違和感を感じる。
身体が痛い。主に腹を含めた下半身。
腹は冷えたんだろう。裸で寝た自分が悪い(いや、酒のせいにしておこうか)。
不思議なのは腰と足だ。
腰は全体。足は付け根から爪先まで筋肉痛のようにビキビキと痛む。
別に運動した覚えはないけれどたぶん筋肉痛の痛みだ。
あれか?遅刻回避のために全力疾走したのがまずかったのか。わりとよくやってるけど……理由がそれしか思い付かない。
ズボンと一緒に丸まっていた下着を見つけた。
ズボンは着るのが面倒だから後でいい。
とりあえずそれを身に付けて、ぐるごろと動く腹の様子から先に済ませた方がいいなと、足を引きずるように動かしてトイレに向かった。
用を済ませ、流す直前。
きっかり三拍思考が停止した。「ぅ……っぎゃぁぁあああっ!!」
急いで視界からデリートし、(我ながらビビり過ぎだが)勢いよく個室から脱出し、戸を閉めた。
――酷いものを見た。グロすぎる。
……新手の病気だろうか。いや、聞いたことがない。
それにしても恐ろしい……一気に目が覚めた気がする。
ぁ……ああそうだ、喉が乾いていたんだ。よし、水でも飲むか。
洗面所でコップ一杯の潤いを手にすると、今度は腹が空腹を訴えた。
何か食べよう。
震える足を運び、ダイニングへの扉に手をかけた。「起きたか」
かちゃりとドアを開けたら見知らぬ男が目の前にいた。
長い白い髪。整った顔立ちは女のようだが、一八〇ある自分より高いらしく、軽く見上げる位置に真っ赤な目があるのだから男だろう。声も低い。
眉目秀麗という言葉がぴったりだなんて柄にもないことを考えた。
つか、「誰だ、アンタ?」
養父の知り合いだろうか。それにしても無断で人の家に上がり込むとはいい度胸だ。
不信感たっぷりにそう言えば、赤目の美形は眉根を寄せた。「……覚えていないのか?」
「は?」覚えていないもなにも初対面……か?
そういえば、この声は聞き覚えがある気がするし、なんとなく見覚えもある気がする。「名なら言った。それに、お前が私を連れてきたのだろう」
「オレが?」人なんか人生の一度も拾った覚えはない。
あるのは――。「まぁいい。それより……随分と良い格好をしているな」
「は?あっ!」しまった。服を着ていない。
お情けで大事な所は隠れてるけれど、人前に出る格好には到底相応しくない。
いやでも、向うが勝手に湧いて出てきたんだからオレのせいじゃないだろ。そっちが悪い。
そこまで思ったところで、男の手がふいに延び、胸板を撫で、あまり意識したことのない飾りを弄った。
ぞくりと身体が反応する。「んぁ……っ!デュークやめっ…………ぅえ!?」
「身体は覚えているようだな」
「なっ……なに!?なんだっ!?」こそばゆい痺れに声を上げ、無意識に口から名前が飛び出た。
ぜんっぜん知らないはずだが、不思議とコイツの名前はデュークだった気がしてきた。「……やはり強すぎたか」
私もまだ若いな等と意味のわからない事を言うソイツはふいにオレの手を掴んだ。
「なっ、なんだよ」
「来い」
「は?」手を引かれ、来た道を引き返すようにオレはまた寝室へと足を踏み入れた。
そして、ベッドにダイブする。「うあっ!?」
「忘れているのならもう一度してもいいだろう。私の名はデュークだ」いや、それはもうどうでもいい。それより何をする気だ。自己紹介だったら覆い被さる必要は無いだろう。
妙な既視感を感じて、頭の中で警報が鳴る。「人の精気を糧に生きるものだ。一部からは淫魔などと呼ばれている」
いらない。そんな情報要らないから退いてくれ。つか意味わかんねぇよ。なんだよ淫魔って。冗談はよしてくれそんなファンタジー。話の展開に付いていけない。
そして顔を近付けるな。「だから、暫く厄介になるぞ」
なにがだからだ。話の筋がわかんねぇよ。そんなの拒否するに決まってるだろう。
人の話をまるで聞いちゃくれないソイツの顔が近付く。
顔を挟む手を退けるためがしりと掴んで左右に引っ張るが、顔に似合わず馬鹿力のようだ。びくともしない。「っざけんな……んむっ!!」
顔がくっついたと思ったら口の中にぬるりとしたものが侵入してくちゃりと音を立てた。
同時に口の中に広がる甘い、あまい味。
刹那、次々にフラッシュバックする昨日の出来事。
思い出すのは断片的だが、浮かぶのはどれも生々しい行為。
体に這う舌や手の動きに声を上げる自分。
有り得ないところに男の武器を入れられて、女のように声を上げ揺さぶられた。
熱に翻弄される身体をどうにかしたくて、自ら行為を強請ってもいた気がする。
全身に火が付いた気がした。「んんーっ!!んっふ、ンっあ」
ちゅぱりとまたやけにイヤな音を立てて離れる口。
口の中でさらりと消えた甘さの代わりにじわじわと身体を襲う熱。
甘みにも、熱にも、覚えがある。「昨日より効果は弱いが、充分だろう」
なにが、なんて聞きたくない。
わかりたくも知りたくもないのに昨日の、ほんの小さな刺激にも信じられないくらい高い声を上げていた自分と、現在進行形でじわじわと高まる熱にまさかと思いながらなんとなく嫌な予測が付いてしまう自分が憎い。オレだって男だ。そういうのに興味はある。
ただそれは使う立場であって、使われる方じゃない。断じて。
熱が、溜まっていく。息が知れずに上がる。
しかし、理性は前回と違って残っている。
余計気恥ずかしい。「はっ……や、めろっ!」
「この姿が嫌か?」何を的外れな事を言うんだコイツは。
「なにを……っ」
「猫には随分と可愛らしく、素直に顔をほころばせていたからな。そちらが好みならそうするが……」どうする?
と訊ねられても困る。
どちらも慎んでお断りする。
……というか、ちょっと待て。どういう意味だ。「んっ、ぅ……なん、だって?」
身体を撫でる手を掴んで、微力ながら(しかしほんとに力量差が激しい)妨害しつつ疑問を投げ掛ける。
「猫に愛撫されたいのなら姿を変えよう言っている。私は優しいからな」
は?と目が点になった気がした。
思わず掴んだ手も離してしまった。
次いで、視界からデュークが消えた。「なっ!!え!?」
代わりに、白猫が一匹胸の上に乗っていた。
……………………有り得ない。いや、ほんとないって。「うそ……だろ?」
「なにがだ」独り言のつもりだったそれに猫の口が開き、低い声で律儀に返答が返された。
「夢だ……夢を見てるんだオレは……んひぅっ」
「喜ばしい事に現実だ」ザラリとした舌が胸板を這うのと同時に猫の尾が臍の辺りを撫で付けて、昨日まで感じることのなかった甘い痺れに、いっそのこと気を失いたいと切に願った。
しかしそれが叶うことはなかった上、朧気に覚えていた昨日の行為が余すことなく――寧ろ追加要素を伴って再現された。
――大変至極、残念無念不本意ながら、この日新たに人でも猫でもない同居人(?)が増えた(心境の変化にナニがあったかは聞くな。頼むから)。
これを境に、オレの常識と平穏な日常はぶち壊されることになった。