十代な下町二人
フレンは女の子に付き合ってと言われ断れなくて付き合った事があるよって前提
ユーリは花街で遊んだことがあるよって前提
花街の意味がわからなくても全然読めます
この注釈に意味はほぼ無いです←
**ハロー青春ぐっばい青春
これなら勝てる。
ユーリはそう確信した。
生まれてこの方、フレンに一度として何においても勝ったことがない(引き分けや灰色は有るが、勝ったと大声で言えるものがない)ユーリはこれはもう挑戦するしかないと意気込んだ。「フレンっ、勝負しようぜ!!」
「いいよ」勝負の内容も聞かずに承諾するフレンは微笑んでいる。
ユーリからしてみれば、あれは勝者の余裕だ。どんなことにも屈しはしない。来るならこい、自分が勝つという絶対的な自信から来る挑発的な態度にしか見えない。
絶対に泡を吹かせてやると意気込むユーリ。
対するフレンは、ユーリが考えているような勝負師ではなかった。
自信と期待に満ちた大きな紫紺の瞳をキラキラと輝かせ、自分に駆け寄ってくる愛しい人の姿にただ鼻の下を延ばしていただけだ。
そんなこと露とも知らないユーリは、ふははははっ今度こそ絶対にお前に勝つ!負ける気がしねぇ!!わはははははっ!!と実に楽しげに(邪悪な)笑みを浮かべていた。
そんなユーリをまた可愛いなぁなどと腐った目で愛でるフレンは穏やかに(内心は荒々しく息を吐きながら)笑った。「それで、内容は?」
「聞いて逃げ出すなよ」くくくっ、と(どこぞの悪役のように)喉を鳴らして笑うユーリは、その笑い方にまったく似合わない2つの音を口にした。
――フレンの思考はきっかり一分停止した。
その様子を見て、更に勝利への確信を深めたユーリはにやりと顔を歪めた。
卑怯だと言われようがなんだろうが構わない。勝負の内容を先に聞かない方が悪い。
お堅いフレンには言えないような処に足を運ぶことも(極稀だけれども)あった上、巧いとのお墨付きを貰った。
これはもう勝ったも同然だ。
清く正しいフレンにはそういった経験は少ないだろう。それは一番近くにいた自分が一番よく知っている(実は調査も少しした)。
きっと顔を真っ赤に染めてそんなことできるわけがないっ、なにを言っているんだとあわてふためいて(その顔を想像するだけで愉快だ)勝負を拒否するだろう。
そうなったら不戦勝だ。
ふっ……くくくっ。明日からはオレの風が吹くぜっ!!
この時のユーリは、目先の勝利(と呼んでいいのかわからない作戦)の二文字に目が眩んでいた。
いや、この時でなくともユーリは勝利の二文字が見え隠れするとどうも注意力、察知力、判断力その他諸々が疎かになっていた。
この日、この出来事を境にそれもほとんど改善されて立派に『みんなの頼れる兄貴』と成長することを彼はまだ知らない。「も……もう一度、言ってくれる?」
表情の強張ったフレンがユーリに問う。
ユーリは心の中でガッツポーズをとる。「だから、
キス 」ユーリの思惑通り、フレンは顔を真っ赤に染めあげた。
勝利は目前だ。あとはフレンが勝手に自爆する。
にやけるユーリの誤算は、一つ。「あの……、一応確認するけど、誰と誰が、キス、するの?」
「オレと、お前」いよいよ目をまん丸くして茹でたこ状態になるフレン。
さあ、全力で拒否するがいいっと待ち構えているユーリの肩をそのフレンが鷲掴んだ。「ぃっ……いいの?」
「は?」ユーリにとっては予想外の展開だ。
「……キス、してもいいの?」
フレンにとっても予想外の展開だがまるで意味合いが違う。
片想いの相手からキスを強請られるなんて……まさか……まさか片想いの相手とは実は両思いだったなんて!!
考えてみれば今まで幾度となく与えられていた色気もそっけもないアタックは彼なりの精一杯の愛情表現だったのか。理解した。
今、唐突に理解した。
今まで気付かなかった自分はなんて馬鹿なんだろう。
ごめんよ、ユーリ。そうとも知らず、今まで恥ずかしがりやな君の想いをちゃんと受け止められなくて。僕がなかなか行動を起こさないから、焦れて君からアクションしてくれたんだね。
これはもう結婚前提のお付き合いでいいんだよね。
だって、キスだよ。キス。KISS(けーあいえすえす)、きす。
口での告白よりも行動派な彼らしい直接的な告白だ。
これは応えるしかない。
ブッ飛んだ思考に心臓がばくばくと鳴っているフレンとはまた違う意味合いでユーリの心臓も跳ねていた。
ユーリは、付き合ってもない奴、しかも男同士で唇を合わせるなんて行為をフレンという硬派の世界代表が許すはずがないと踏んでいた。
にも関わらず目の前にはヤル気満々の、ギラギラと光る、未だかつて見たことのない凄みさえ感じる揺るぎ無い青。
え、なにコイツ。コワっ。
つか、マジにやる気?ぇぇっ。
流石のユーリも戦いた。
しかし、言い出したのは自分だし、もしかしたらこれは(これも)奴の作戦の内、もしくは自信の表れかもしれない。
奴のペースに呑まれたら負けだ。今回勝つのはオレだっ!!きっと奴の考えているのはガキのキスだっ。ふふん、精々驚け。そして早々に怖じ気付いて敗けを認めろっ!
ユーリはぐっと気合いを入れた。「男に二言はねぇ」
フレンに負けまいと、ガシリと肩を掴み返した。
「……いいか。先に根をあげた方が負けだかんな」
「わかった」ここまで来たら後には戻れない。
ならば先手必勝。
ユーリはフレンに噛みつくように向かっていった。
が、先にフレンがユーリの唇に食いついた。
文字通り、食いついた。「っ!!」
でぇええええっ!!???とユーリが心の中で叫びを上げている間に侵入したフレンは貪るように口内に吸い付いた。
歯列をなぞり、舌に絡み付いて、頬の内側、歯茎、口内を隈無く這い回る。
思い付いたように唇や舌を噛まれたり吸われたり、押し付けられたり挟まれたりするその動作に、本当に食われてしまうんじゃないかなんて錯覚さえしてしまった。
まったくもってこんな状況を予想していなかったユーリは攻めに転ずる機会を見付けられず、ただただひたすら守りの体勢になっていた。
――だいたい、誰が予想できただろうか。
今まで話が出てきても、清すぎるほどに清すぎて逆に浮いた話に聞こえない付き合いしかしてないフレン。それに、(これは最近の調査でわかった事だが)数少ない上短くはあるがフレンの彼女歴を持つ女は「フレンとキスなんてしたことがない」と(愚痴に混ざって)言っていたのに、だ。
なんでこんなにも積極的かつ激しすぎるほどに激しい接吻ができるんだ。
それは単に好きな者への執着やら、渇望するものへの独占欲やらといった男の本能的な支配欲による行動だったのだが、そんなもの知る前に「技」を知ってしまったユーリにわかるわけがない。
動揺するユーリをおいて、余すことなくユーリを堪能するフレン。
やっと二人の顔が離れた時には誰がどうみても勝者は決まっていた。「……」
「……僕の勝ち」で、いいんだよね?と(やたらムカつくほど)爽やかな笑みを浮かべるフレンに、ユーリは息切らしながら呟いた。
「……詐欺だ」
こんな、聖人君子然としたキラキラ王子(下町の一部から呼ばれてるのを聞いた)に、コッチの手合いでも負けてしまうとは……。
しかも、普段の手合いよりもやたら精神的ダメージがでかい。「……もういい」
「え、どうかした?」ぼそりと呟くとユーリはふらふらと歩いていった。
「どっ、どこ行くの!?」
慌てて声を掛けたフレンに振り向いたユーリはかなり荒んだ目をしていた。
「寝る」
ちゃんと現実に帰ってこれるのか危うい雰囲気を醸し出すユーリに、流石のフレンもそれ以上はなにも言えなかった。
いや、訂正しよう。
誰がどう見ても機嫌の悪いユーリの態度もなんて可愛いんだろうかと胸をときめかせて、いろいろと手遅れの状態だったため何も言えなかったのだ。
彼の胸の中は今満開の花やら何やらで一杯だ。
――一方。ふて寝をしはじめたユーリは、プライドやらなにやらをメッタメタのギッタギタンに粉砕された今日の事は忘れることにした。
それがいい。一番いい。
悔しいけれどフレンに勝てるものは数少なくてもいい。無くてもいい。勝てたらラッキー御の字だ。
もういい。それでいい。
だから今日のことは忘れよう。
明日からはちゃんと、挑むのなら正々堂々とした勝負をしよう。それがいい。
……それにしても、フレンとはいえ男と――うぇぇええぇえええっ。
だから忘れるんだオレっ!
だいぶ気持ちが落ち着いてきたころには、――オレの青春は終わったな、等と年頃の男としては早すぎる終わりを悟っていた。