あんまり関係ないけどED後
なんか読みにくいけど……いつものことですね
**そんな昨日はほわいとでー
「ばかっ!!!!!」
ユーリは目を丸くした。
対するフレンは顔を真っ赤に染めて、手なんかぶるぶると震えている。
「ばか」だなんて言葉をフレンの口から聞いたのはいつぶりだろうか、なんてとぼけたことを考えてしまうくらいユーリは驚いていた。「えー、と。なんだ?」
「酷いよ君はっ!!君って奴はっ!!」なにが酷いのかはわからないがなんだか随分と非難めいた眼差しに、感情に任せて怒鳴る口振りからとりあえずなにか悪いことしてしまったらしい。
なにが悪いのか検討もつかないから謝りようがないなと思いつつも、ユーリは今にも泣き出しそうなフレンに謝っていた。「わ、わる……かった、?」
疑問符が付いてしまったが仕方ない。
「ほんとだよっ!!まったく……」
その点はたいして気にしなかったらしいフレンはぶつぶつとまだ小言を呟いているが、まぁ許容範囲。やっと普段の落ち着きを取り戻し始めていた。
「いや。お前は全然変わってない、か」
普段もなにも、昔から頭に血が上りやすく醒めやすかったのだから元より落ち着きもなにもなかったかと思い直したユーリに、今度はフレンが首を傾げたがそれには応えなかった。
「で、なんだって?」
お互いギルドやら騎士団やらの用事があり、久方ぶりに再会した第一声が罵声だったのだから理由ぐらい知っておきたいと尋ね聞けば、すっかり落ち着き払った騎士団長殿はため息を吐いた。
「……やっぱり、まだ覚えてなかったの?」
「なにを」まぁ、そうだよね。期待はうん、少ししかしてなかったよとかなんとかブツブツと言うフレンはまたやけにわざとらしくため息を吐いた。
「なんだよ」
「バレンタインデー」は?
と呆ける気持ちはわかる。
ユーリの記憶が間違っていなければバレンタインデーというものは寒い時期の真っ只中にあったと思うのに、今はもう暖かな日差しも見られる春直前というか春と言っても差し支えない頃合いだ。
なぜ今更バレンタインデー。「今年、下町に来なかっただろう。……女将さんが心配してたよ」
「女将さんが?」曰く、甘いものに釣られてやって来ないのはなにか変事があったのではないか、ということらしい。
「オレをなんだと思ってるんだ」
「僕だって休みとってたのに……」そこまでしたのか。
予想外の発言にまたも目を丸くする。「そんなこと言われてもなぁ……」
寒い時期の真っ只中。
正直、バレンタインデーは好きだがそれは「珍しい甘いものが食べられるいい日」というものだからであって、詳しい日程なんて覚えてない。
というか覚える必要がなかった。
下町ではチョコはわりと高価なものだったから、宿屋兼酒場の箒星で朝一番にそれを貰えた日がバレンタインデー。
確かに寒くなってくればそろそろバレンタインデーだなと、甘いものがタダで食べられるなと思ったりもするけれど、日付として意識したことは無かった。
だいたい月始めでも終わりでもなく、語呂合わせでもなんでもないただの日を覚えろと言う方が難しい。というのがユーリの持論だ。
ついでに言えばここ最近凛々の明星は大忙しで、あっちこっちに飛び回っている。
お陰様でフレン含め、色んな人に会えたとはいえけっこうな仕事量だから寄る寄れないは勘弁してほしい。
だいたい毎年約束していたわけでもないのだからフレンの言い分は少しずれている。「とりあえず、女将さんには挨拶に行くよ」
気は強いくせにやたら心配性の女将さんも昔から変わっていない。
ついでに今年渡し損ねた花を渡そうとユーリは密かに決めた。「で、お前はなんであんなにピリピリしてワケ?」
「……」イベントに参加しなかっただけであんなに罵られてたわけじゃないのだろうと、ユーリは腕をならしながら詰め寄った。
これから先もそんな下らない理由で小言がでるのであればちょっと許せない。
冷静になったフレンも、流石にさっきのは一方的すぎたなと思い返したが、うまい理由が思いつかない。というか、言ったら言ったで「なぜ?」の質問に答えられそうにない。
結局口から出たのはありきたりな言葉だった。「えー、と。その…………ごめん」
これにはもうため息しかでなかった。
「お前な……」
「だって……君、帝都に来てたくせに昨日も顔出さないし……」
「そりゃ仕事があったからな。……って、昨日?」何かあったかとユーリに尋ねられフレンは何度目かの息吐く。
「…………ホワイトデー」
「ほわいとでー、だ?」フレンはついに頭を抱えた。
知っているものだとばかり思っていたからよけいショックがでかい。「ユーリ、ホワイトデー知らないの?」
「……生クリーム記念日か何かか?」
「……」大変居心地の悪い間が訪れた。
チョコの次に食べれた物なんて砂糖付けの大豆とか菱形の餅だがそれはもう過ぎたし、柏餅なんていったら随分と後の話だ。
そもそも、「ホワイト」が何を示すのかよくわからない。「……別に、たいした行事じゃないし、寧ろ好都合だったかもしれないけどね」
と、フレンは何処からか花束を取り出した。
ほんとどこからだ。「で?」
そっから鳩かなにか飛び出すものかとユーリは身構えたがそんな気配はない。
「えーっと、だね」
簡単に言うと、バレンタインデーの代わりだとフレンは説明し始めた。
「ほんとはバレンタインデーのお返しを渡す日なんだけどね」
「ははーん、なるほどな」いままで全部バレンタインデーだけで済ませていたがそんな日があったとは驚きだ。
つまり、これは来年のバレンタインデーに物を寄越せという催促か。「めんどくせぇから今日終わらせようぜ」
たかだか日付ごときを気にしても仕方ない。できることは今やったって構わないだろう。
フレンも一日遅れで渡してきたことだしと思ったユーリの行動はきっぱりと断られた。「駄目だ。来年の二月十四日じゃないと駄目」
「いいじゃねぇか」
「駄目なものは駄目」変なところで持ち前のスキル頑固が発動したようだ。
こうなったら止めるのは一苦労。それこそ面倒だ。「……わかったよ。来年の二月十四日だな」
「うん、楽しみにしてるよ」コロコロと表情を変えるフレンは見ていて楽しいがなにか釈然としない。
覚えてられるかなと思っていたら「あっ」と思い付いたようにフレンが声を上げた。「そうだ、来年のバレンタインデーはチョコレートを頂戴ね」
「チョコ?」いやたしかにギルドの仕事やらなにやらで今は買う金には困っていないけれども、毎年花を渡してたのに、いきなりチョコ。
唐突な強請り物に首を捻った。「お前、好きだっけ?」
「好きと言うか……食べたいんだ」
「ふーん、まぁいいけど」考えてみればやること、内容は大差無い。
好きな奴に花やら菓子を贈るというイベントなのだから、花が食べ物に変わるだけだ。「ならお前も今度からは食いもんにしろよ。稼いでるんだろう、騎士団長サマ」
にやりと口の端を吊り上げ笑うユーリにフレンは晴れやかな笑みを浮かべた。
「わかった」
ユーリたちが帝都に訪れているという情報を手に入れて昨日、色々とチョコレートを貰う為の算段やらなにやらを立てて下町に顔を出していたフレン。
結局当日は、かなり気合いを入れ昂った思いを胸に待ち構えていたのにもかかわらず、標的が見えなかったため非常に疲れただけだったが、一日遅れて結果オーライだ。
好きな人からのチョコレートを初めて受け取れるという来年が待ち遠しい。「楽しみにしてるよ」
「期待はすんなよ」忘れるかもしんないしとユーリが言えばフレンはにこやかに応えた。
「大丈夫。今度からはちゃんとその前に連絡いれるよ」
「そこまですんのかよ」どんだけ食べたいんだとぼやいた言葉は届かず、フレンは楽しげに言う。
「ふふっ。そろそろ、カロルたちの所に戻るんだろう?そこまで一緒に行くよ」
「仕事熱心なのはいいけど、ほどほどにな」二人はゆっくりと歩き出した。