思考が止まっていたらしい。
改めて声を掛けられて気付いた。「ぁ、ああ、っと、なんだって?」
自分でも不思議に思うくらい、何故か動揺している。
理由なんてわかるわけがないが、思考が飛ぶ直前の台詞を繰り返されて一瞬息が詰まったからそのせいかもしれない。
それにしたって理由が意味不明だが、漠然とそう思う他に無かった。「花を贈ろうと思っているのだが、なにがいいと思う?」
誰に、何のために?
それが喉に突っ掛かった。
ふと思う。
そんなこと気にしてどうする。
別に、どうだっていいことじゃないか。
気にするべくは、何故オレが花なんぞを選ばなきゃならないのかという理由じゃないか。
デュークに花を贈るような相手がいたとしても関係ない。
関係ない、のに、「……誰に?」
気付いたらどうでもいいことを訊ねていた。
自分の声とは思えないほど声が震えた気がしたが、気のせいだろう。耳に聞こえたのはいつもと変わらない自分の声だった。
返答が返ってくるのに、間はほとんど無かった。「友……エルシフルに」
「ああ……」吐いた息と一緒に喉に突っ掛えていた物が取れた気がして幾らか気分がすっきりとした。
「なんでいきなり?」
「そろそろ、会いに行こうかと思ってな」遠くを見て、和らいだ表情に何故か胸がツキリと痛んだ。
……調子が悪いのかもしれないと、今更思った。「手向ける花を考えていたのだが……」
ふと言葉が途切れて、向けられた深紅と目が合う。
「お前は、なにがいいと思う?」
「なにがいいか、ねぇ?」花なんてものオレが詳しいはずがない。
名を知っているのなんて極少数だ。
名前を知らなくても、花の色と形で食えるか食えないかとかは少しくらいわかるが、それは流石に違うとわかる。
訊く相手が間違ってるとは思ったものの、今近くに他に人影が見えないからまぁ仕方無いのかもしれない。「……なんでもいいんじゃねぇか?そういうのは気持ちが大事なんだろ」
面識も知識も無い自分より、どう考えてもデュークが自分で選んだ方がいいだろうと思ったが、再度デュークにその役を頼まれた。
「お前に、選んで欲しい」
めんどくさい。
思ったと同時に、よくわからないモノが胸にじわりと広がった。
然り気無く目を逸らして辺りに視線をさ迷わせたとき、視界に小ぶりの白い花が映った。
こんなものじゃ悪いかとも思ったが、他に思い付くものもない。「……じゃあ、これとか」
群生していたそれを数本摘み取り差し出すとデュークの手に移った。
「なかなか、だな」
いいのかよ。
顔も何も知らないエルシフルに罪悪感に似た何かが込み上げてきたが、渡す本人が納得してるなら良しとしよう。「そっか」
何気なく返すと、デュークはとんでもなく脈絡無いことを口走った。
「お前に似ているな」
「はあ?」何がどう何に似ているのやらさっぱりだ。
話のタイミング的には、この白い花とオレが似ていると言われたようにとれる。
ならあれか?デュークの目は特殊仕様なのか?
色だけ見ればデュークだとも思うが、この小ぶりさは男に例えるものじゃないだろう。
いや、それ以前に男は花で例えるものじゃないだろ。
オレ的にはエステルだとかいった女に使うべき形容だと思うが……。
しかし、聞いてみたい気もする。
どこら辺をどうみてそんな突拍子もない事を言い始めたのか。「どこら辺が?」
思った事をそのまま口に出して聞いたら、
「真っ直ぐで、可愛らしい」
そう言って、その口を白い花弁に押し付けた。
頬に、薄いけれども柔らかなそれを押し付けられる感触。
刹那の間それを思い出して、よくわからないがむずりと身体が疼いた気がした。
不快では無いが、なんとも形容しがたいその妙な感覚に戸惑ったが、それはすぐに消え失せた。
妙な疼きに気を取られたおかげで突っ込むのが数拍遅れた上、突っ込んだら突っ込んだでまた話が妙な方向に行ったのだが、それはまた別の話だ。
**「男に可愛いはないだろう」
いつのまにか、体の不調はすっかり治っていたが、それもまた別の話だろう。