**きもちいいから
もみもみもみ、と擬音が聞こえそうな程マッサージ(?)をされている。
たぶん、マッサージだ。
される理由はわからないが恐らくはマッサージだ。
なんでいきなり始めたのかはいつものごとく全く持って不明だが別に悪い気はしない。ちょっとどころでなくかなり意味不明なだけで。「……」
「……」しかし、大の男が二人並んで無言のまま一方的に二の腕を揉まれている図とか、もし傍から見てる奴がいたら何事かと思うだろう。
いや、というかやられている自分自身何事かと思ってる。「……なぁ」
「なんだ」流石に同じ体勢、理由も言われず無言で長時間揉まれていていては(と言っても五分程度だが)誰もが不審に思うだろう。
オレも勿論その一人だ。「なにがしたいんだ?」
返ってきたのは期待外れの言葉だった。
「どう思う?」
疑問に質問を返すなよと言いたいところだが敢えて堪えた。
「どうって、例えば?」
「気持ち良いか?」二の腕を掴み揉むデュークの手は程好い力加減で圧迫と解放を繰り返している。
まぁ、気持ち良いか悪いかと言えば結構きもちいい。「まぁ、どちらかと言えばな」
「そうか」一言そう溢したデュークはふと微笑んだ。
……なにを満足しているんだか。
そう思っていたら今度はふと真顔に戻り、真顔で、「言ってみてくれないか」
「は?」催促された。
「なにを?」
しかしまるで求められていることがわからない。
なにを言えと、と聞けばやはり真顔で、「今の、お前の気分だ」
「はあ……?」また脈絡のないことを……。
呆れたが、とりあえず応えることにした。「意味不明」
「……」珍しいことに、デュークは不満の二文字を浮かべた顔を露にした。
少し眉間に皺が寄り、目がなにかを訴えている。「……じゃあ何言って欲しいんだよ」
無言で訴えられても生憎と悟りを拓いてる訳でも、読心術を心得てる訳でもないからわかるはずがない。
訊いてみれば、「こうされて、気持ち良いのだろう?」
言われて腕をほんの少し強めに揉まれる。
「まぁ、それなりに」
どちらかと言えば、と心の中で付け足す。
揉まれて、押されて、圧迫されて感じるじんわりとした痺れは確かに心地よいと思う。「それを」
言ってみてくれないか。
また言われた。「?、きもちいい?」
促された通り言った言葉に疑問符が付いたのは仕方ないだろう。だって、こんなことを言わなきゃならない意味がわからない。
しかしデュークは満足気に微笑んだ。
今日は随分と表情に変化があるなとその様子を眺めていたら、またも頼まれた。「もう一度、言ってみてくれないか?」
言って減るものでもない。
言われた通りに口に出した。「きもちいい」
他人にマッサージをすることに楽しさを覚えたのかなんなのか、デュークは機嫌良さげに腕を揉みながら笑む。
「もう一度」
「きもちいい」
「もう一度」
「きもちいい」
「もう一度」
「きもちい」
「もう一度」
「……あんたはなにがしたいんだ」いい加減にしろと言い、掴まれていた腕を引き寄せ離した。
布越しに感じていた体温が消えたことに、なんとも言えない感覚がしたが、それ以上にこの意味不明なやり取りが堪えられない。「もう充分だろ」
「……」行き場のなくなった手を所在なさげに宙に浮かせたまま、デュークは頷いた。
「まぁ、今回はこれくらいでいいだろう」
今回は。とはどういう意味だと問い詰めたくなったが、直後にまた腕を掴まれた。
まだマッサージしたいのかと思ったのもつかの間、今度はただ掴んだだけで、揉まれはせず引寄せられる。「おわっ……」
元々かなり接近していた位置にいたものだから、体勢を崩したオレはデュークに支えられる形になった。
腕は掴み上げられたまま身体を預けるという、関節に優しくない体勢のせいで肩の辺りが痛い。「いっ……なにすぁっ!?」
非難の声を上げようとしたがデュークの奇っ怪な行動のせいで阻まれた。
――食われた。
おもむろに開いた口が服の上から二の腕を食んだ。
ぞわりとなにかが背筋を這うような、悪寒にも似た危険ななにかを感じて無理矢理体勢を立て直す。「っ、なにすんだよっ」
先程中途半端に止められた台詞を吐き出すと、デュークは一度軽く頷き、残念そうに言った。
「……固いな」
柔らかくてたまるかと、自分よりも若干しっかりとした体つきの男に言ったら何か考え込み始めたが、その事について話し合うことは無いと願いたい。
でも、腕を揉まれるのは確かにきもち良かったからマッサージくらいはまたされてやってもいいと思う。
男性は、一般的に腕を揉まれると気持ちいいと感じるそうです
女性は頭をなでられると気持ちいいらしいです