**次会ったら何を話そうか

 

「あんた、家とかあんの?」
「は?」

 すっとぼけた返答を返したデュークに思わず吹き出しそうになったが、全力で堪えた。

「……だから、住んでる家とか、決まって寝泊まりしてるとこあんのか聞いてんだよ」

 毎度毎度、出会うところと言えば人里離れたところ。町中でも特に閑散としているところばかり。
 しかも、その出没範囲はかなり広い。
 ギルドの活動で世界中を飛び回っている間に幾度となく出会うものだからこりゃおかしいと思ったのだ。
 まさか、常に野宿オンリー?
 いや、まさか、はははははっ。
 と、笑い飛ばせないのが非常に残念だ。
 今回だってニフル湖近く、ユレゾレア大陸南に在る森の中での遭遇(因みにギルドの目的はここいらのモンスターが持ってる素材回収だ)。
 なんだってこんなところに、と思うのは仕方ないだろう。
 その理由を考えてもしや家が近くにあるのかとも思ったが、そうしたらスリオン島などという辺境で出会った事の説明に今度は悩む。
 いや、各地のエアルクレーネを鎮めてるらしいってのは聞いたけど、そういう意味じゃない。
 一人脳内でノリ突っ込みをしていたら、暫く首を捻っていたデュークが、淡々と口を開いた。

「……特に決まった場所はないな」
「マジかよ」

 なんだ……と、酷くがっかりしたら、その様子を見てとられたのか別の意味でなんだと聞き返された。

「いや、別に、大したことじゃねぇよ」
「言え。私が気になる」

 少し悩んだ。
 別に、言うのを憚れたとかじゃなく、ただ本当に大した理由じゃなかったからだ。
 しかし、デュークからこんな風に話の続きを促されるのは珍しかったから、希望に応えることにした。

「ただ、あったら邪魔してぇなって思ってただけ」

 生活感の薄い家と思いきや、やたら無駄に物が置いてある気もする。
 きっちりきっかりやたら小綺麗なフレンのような部屋というイメージもするが、逆に片付けとは無縁の部屋のような気もする。
 そう言えば食生活も気になる。
 行きたいと思ったのは、そういった好奇心からだった。

「そうか」

 それを理解したのかどうかはわからないが、デュークは一つ頷いた。

「もし」

 ふとデュークの赤い目と合う。

「もし、家があったら、お前は訪ねて来るのか?」
「まぁ、そりゃ気になるし」

 なにがと言えば生活環境だ。

「そうか」

 またも頷き、今度は歩みを止めた。

「デューク?」

 振り返り、半歩歩み寄るとぐいと体を引かれて更に引き寄せられた。
 額に触れる、すっかり慣れた感触が妙にくすぐったい。

「……また」

 言われて今のが別れの合図だと知る。

「ああ、またな」

 軽く手を振って返すと、さっさと背を向けて行った。
 さてとて自分もまた振り返ると、妙な顔をした二人とラピードが待っていた。

「なんだよ」
「いや……その……ボクはユーリが良ければそれでいいんだけどね、うん」

 視線を逸らされ、何事かとジュディに目配せするとこちらもいつものすまし顔が僅かに歪んでいる。

「まぁ、私たちもそうなのだけれども、ね……」
「クゥーン……」

 ラピードまで言いたげにこちらを見る。
 首を傾けると、カロルが酷く言いにくそうに言葉を詰まらせながら応えた。

「あの、さぁ……慣れ、すぎ……じゃない?」
「……ぁー」

 確かにそうかもしれないが、この面子の前でやられたことなんか既に数えきれない。
 気にする方が疲れる。

「あんなん、犬猫のスキンシップ。挨拶だと思えばなんともないだろ」
「うん……ボクも、最近はそう思ってたんだけどね……」

 習慣になる前はすごかった。
 オレがキスされる度にカロルは錯乱するし、ジュディスはやっぱり錯乱して危ないことを口走るし、ラピードは牙を剥いて唸る。
 オレはといえば、絶叫するか放心するか、奇行に走る奴等に突っ込むか……エトセトラ。
 それが今の凛々の明星ではただただ事の成り行きを見守るだけだ。
 そこに慣れ以外の要素はない。

「なんか、改めてみると、ね……うん」
「嫉妬しちゃうわ」

 にこりと笑ったジュディは似合わない台詞を吐いた。

「なんだそりゃ」
「心意よ。ね、カロル」
「えっ、そこでボクに振るの!?」

 慌てるカロルにジュディがくすくすと笑い、つられて一緒に笑った。

「ふっ……二人とも酷いよぉっ!」
「ははっ、……っと、そろそろ終いか?」
「そうね。どうかしら、ボス」
「え?ああ、うんっ、これくらいだね」

 無事に依頼成功……とはまだ言えないが、頼まれた品を集め終わったからほぼ終了だ。

「よしっ、じゃあ帰ろっか」
「だな」

 森を出て、依頼人に渡せば完璧に終了。

「もう少し道が開けたら、バウルを呼ぶわね」
「ワンワンっ」

 そうしたら今度はまた別の依頼を受ける。
 次の仕事は何になることやらと、よろず屋ギルド(カロルは一本に絞りたいそうだがもう無理だろう)としては大変楽しみに思う中で、ふと脳裏に緩やかに波打つ白い影が浮かんで消えた。

「どうかした?」
「ん?いや、別に」

 今度会うのがいつかなんてわからないし用事もないのに、次の仕事先で会ったら……なんてらしくないことを考える。

「なんでもねぇよ」

 勿論そんな事はらしくないから口にはしなかった。