「これは会心のできだな」
「ふぅん……」
**震えるのはプリン?
ぷるぷると皿の上で震える塊。
卵と砂糖、それからミルクをたっぷり使って今しがたユーリが作ったプリンだ。
ゼラチンを使わずに、蒸して作った蒸しプリン。
表面にはすだちが全くなく、見るからに滑らかな仕上がりだった。
それをひっくり返して皿に盛った後も特に崩れることはなく、美しい外見を保ったままこうして皿の上で踊っている。
その姿といったら堪らないほど愛しい。
「食べていいのか?」
力作に見惚れていたユーリに淡々と訊くデューク。
「いや、あとカラメル上にかけないと……」
甘いプリンにちょい苦めのカラメルソース。
この組み合わせがなきゃ始まらない。
今日は特別甘いプリンに、特別苦いカラメルソースを作ったから余計だ。
先に作り、器に溜めていたそれをスプーンで掬い上げトロリと垂らす。
今回、底に凹みのない器を使った為、とろみを敢えて付けたソースは成功だったように見える。
つるつるの表面にソースがゆっくりと綺麗な円を描き広がり、溜まった。
「ょ、しっ!」
完成だ。
最高の仕上がりだ。
ちょっと崩すのが惜しく思うほどの傑作だ。
ミルクカスタード色の塊がほんの少しの振動でぷるりと震える。
頭から掛けたカラメルが、キラリと光を反射させながらその反動でとろりと垂れ、つるつるの側面を濡らしていく。
見れば見るほど食欲を掻き立てられる。
――マジにオレ、天才かもしんねぇー。
普段こんな手間を掛けない分、やたらうまそうに見える甘味に自らアホのように絶賛する。
「――で、食べていいのか?」
感慨もなにも無く、またも淡々とデュークが発言した。
別に、完成品を賞賛してほしいなんていうことは考えてないが、それでも少しなぁと思う。
せっかく作ってやったのだから。
「もう少し、なんか他に言うこと無いのかよ」
「そう、だな……いや……」
曖昧に返された返事はそこで途切れた。
「……わーったよ。いいから食え」
盛り付けの終わった皿とスプーンを差し出し、今度は自分の分の仕上げにかかる。
自分が食べる分の見た目などどうでもいいからスプーンでソースを掬いとり、遠慮なく上からたっぷりと掛けた。
上底に歪な円とも言えない形を描いたカラメルは、幾つもの筋を垂らし皿の上に溢れ落ちた。
そのままそのスプーンで早速一口目を掬う。
ぷつんっと殆ど抵抗なく切り出せたそれはスプーンの上でぷるぷると踊る。
口に含んで、舌と上顎で押し潰せばとろけるように崩れた。
まだダマになっているものも、噛み砕くまでもなくほんの少し押すだけで崩れる。
食感も素晴らしいデキだ。
味は言うまでもない。
濃厚な砂糖の甘さをカラメルの苦味が押さえて、後味にカラメルの苦味とミルクの淡い甘さが残る。
完璧すぎるくらい完璧。
思った以上のデキに満足しているユーリの視界に、ふとデュークが映る。
プリンとスプーンを乗せた皿を両手で持ち、じっと見つめている。
その形は渡した後から寸分も変わらない。
「食わないのか?」
さっきから早く食べたそうな事を言っていたくせにとぼやくユーリに、デュークは言葉を濁した。
「いや……食べる、が……」
――動かない。
いったいなんなのだと改めて言えば、デュークは躊躇いながら口を開いた。
「その……お前に見えてしまって……」
危うく皿を落とすかと思ったのは勿論ユーリだ。
「おま……、どこをどうやって見たらソレがオレに見えるんだ」
あまりの発言に呆れるユーリ。
どうも見る目が無いとしか思えないその喩えにそう言えば、真顔で応えが返ってきた。
「この、見るからに滑らかな表面はお前の肌のようだし、息を吹き掛けるだけで儚げに震える様も似ている」
「ぶっ!!!!」
思わず吹き出した。
「確かに食べたいのはやまやまなのだが……いかんせん、このまま『食べられる』ことに期待と不安を寄せて震える姿を見ていたいという欲求も有ってな」
つい魅入っている。
真面目な顔でそんなこと言われて、平常心を保てる奴はいるのだろうか。
いや、いないだろう。
少なくともユーリは黙ってなんかいられなかった。
「なに考えてんだお前はっ!」
心の底から叫んだのに対しても、デュークは真顔を崩さず、かけなしの本気としか思えない口調で、タチの悪い冗談にしか聞こえないことを言い始めた。
「お前を如何に甘く食べるかに決まってるだろう」
髪を一房、いつの間伸ばされた腕が取り、軽い音を立てて口付けが落とされる。
神経なんてそこには通ってないはずなのに、ピクリとユーリはみじろいだ。
認めたくなんかないが、なにか負けたような気がして悔しい。
なんとも言えないユーリにデュークは笑みを溢した。
甘く震えるプリンに重ね見る極上スイーツ