「やっぱ、王道だよな」
「そうか?」

 

**魅力的なショートケーキ

 

 焼き上げたスポンジからは甘い匂いが漂う。
 それを二段に切り分けて、間にはたっぷりの生クリームとスライスしたイチゴを添える。
 満遍なく、これまたたっぷり土台やら側面やらにも生クリームを塗り付けていく。
 もちろん真っ白になったその上にも、赤い実を幾つも乗せた。
 背の低い、円柱のそれをを切り分ければイチゴのショートケーキの完成だ。

「ショートケーキは王道だろ」

 そこらに構えている店も、正直ショートケーキのデキが良いか悪いかで他のケーキのデキもわかる一番シンプルかつ、難しい一品。
 なにせ生クリームの美味さとスポンジの美味さが一番際立つものだ。

「そうなのか」
「そうなんだよ」

 早速切り分けたものを皿によそい、フォークを手にとるユーリ。

「私も相伴させて貰っても?」
「駄目」

 即答したユーリにそうかと短く返し、デュークは隣に腰を下ろした。

「一度はやってみたかったんだよ。ホール一人で食うの」
「ならば切り分けない方が良かったのではないか?」
「一個くらいショートケーキで食べるべきかなと」
「なんだそれは」

 デュークは呆れたと言うように軽く息を吐いた。

「全く同じものなのに、何故形にこだわる」

 眉根をひそめて言われた台詞にふむとユーリは考えた。

「そうだな……。例えばの話、んなこと言ったらスポンジとイチゴと生クリームを別にして、順に食べても変わりないっつーことになっちまうだろ」

 スポンジとクリームが層を作って、中、もしくは外にイチゴが乗っている状態でないとケーキとは呼びにくいものがある。
 別々に食べるのもそれはそれで美味いと思うが、生クリームの甘さにイチゴの甘酸っぱさ、スポンジの柔らかな食感。
 全てを一度に味わい、香りも同時に楽しまなければケーキの醍醐味が消え失せる。
 それに加えて、切り分けたケーキとホールとでは、全く同じものでもなにか違う魅力がある気がする。
 上手くは説明できないが、確かになにかが違う。

「……要は、形も大事ってことかな?」

 軽く纏めた。

「見立てが違えば、なんか別の旨味が出るというかさ……。極端な話、見た目が悪けりゃちっと残念だろ」

 因みに、不味くて見た目が良い場合は殺傷能力が上がるだけだ。

「……ふむ」

 軽く顎に手を当て考える仕草をするデュークを横目にユーリは一口目を頬張った。
 とろける生クリームの甘さに、噛み砕いた果実の甘酸っぱさが広がる。
 続いてスポンジのふわりとした甘さと食感が全てを優しく、まるく包んで喉を通る、そんな感じ。
 もう少しスポンジは固めでも良かったかもしれないなと思いつつ、二口目。
 これだけで既に切り崩した分の三分の二が胃に入る。
 もう一口頬張れば、あっという間にショートケーキは消え、お楽しみのホール(とは言い切れないが)ケーキが待っている。
 流石に大きなものは作らなかったが、それでもあの丸い形をしたケーキに一人でフォークを入れるのは大変楽しみだ。
 弛む口許はそのまま、ついでに鼻唄でも歌い出しそうなユーリ。
 これぞ至福の時と、ご満悦な彼を見ながらデュークは厳かに頷いた。

「成る程」

 気付いているのかいないのか、口の回りを気にせず汚していく姿を見てこれ以上無いほど納得した。

「見目を変えた方がより魅力を感じるのだな」
「ちと違うけど、そんな感じ」

 三口目をごくりと飲み込むと、ようやく気付いたのか口許に手を持っていった。
 指の腹で掬いとったクリームを舐めとり、一息入れる。
 この一舐めでさえも美味く感じるのはやはり自分の腕だなと、クリームの出来に満足している間に、

「よくわかった」

 デュークが神妙に頷いた。
 そして徐にユーリの髪を梳き始める。

「うん?」

 いよいよお楽しみに手を伸ばそうとした所で軽く頭を引かれ、止められる形になり、何事かとユーリは様子を窺うことにした。
 さらりと髪が持ち上げられ、軽く整えられると頭上で一纏めにされる。
 ……ただ髪を結っているだけらしい。
 髪紐だかなにかが巻かれているようで、髪の毛が頭上で踊っている。
 相変わらずやることが唐突で付いていけないが、それだけならばと、またケーキへ伸ばした手が止まり、引っ込んだ。

「ひぎゃっ!!」

 襟首を少し、これまた唐突に後ろに引かれできた隙間に、ふっと息を吹き掛けられたからだ。
 あまりのこそばゆさにユーリが身を縮め震わせている間に、柔らかいものが首筋に触れた。

「っ!!??」

 ちゅっ、と軽く音を立てながらソレが離れると吐息が微かに首筋に這う。
 ぞわぞわと鳥肌が立ちそうで立たない不思議なこそばゆさに翻弄されている間に、デュークは続けて唇を落とす。
 生え際を軽く押すようにされ、つんと髪が、頭皮が引っ張られる。

「〜〜っ」

 なんとも言えない感覚にユーリは顔を歪め固まった。
 それをいいことに、デュークは少しずつ口付ける場所を移動させる。
 髪の生え際に沿って耳の裏側に回り、そのまま額に回り込むかと思いきや、通り過ぎた外耳を食まれた。

「ひゃぅっ」

 思わず漏れた声に口許を手で押さえ付けた。
 そこでようやくスっ、とデュークが離れる気配を感じ、我に返ったユーリは勢いよく首を回し隣に座るデュークを睨み付けた。

「ぃ、いきなりなにしやがるっ!」
「本当は、装いも替えたいところだが……またの機会にしよう」
「なんの話だっ!!」

 噛み合わない会話に吠えるユーリに、デュークは淡々と答えた。

「お前の話だ」

 今度は宙で踊る毛先が口許へ引っ張られる。

「少し手を加えただけでも充分魅力的だ、とな」

 なにを言われているのか、ユーリは正直よく理解できなかった。
 今までの会話の流れも行動の意味もよくわからない。
 けれどもなぜか、顔に熱が集まるのを感じて、髪がぶちりと抜けそうな酷い痛みを感じながらも全力で顔を背けた。

 

 

 

 

 

 

ショートケーキよりも甘くデコレーション