「……なに、これ」
「……」
**大好きなクレープ
机の上に置かれた一枚の皿。
その上に何かが乗っている。
何かと言うのは失礼かもしれない。
焼き色のついた薄い黄色の皮のようなものに、半個体状の白いものや黄緑色の塊がくるまっている。
ついでに言えばほのかに漂う甘い香り。
それはどこからどう見てもクレープと呼べる品だった。
「ぇっと」
見た限り、市販品ではなさそうなそれはつまり誰かが作ったということだ。
その誰かに該当するのは作った覚えの無い自分を除いて一人しかいない。
「これ、作ったのか?」
「……」
無言のデュークはあらぬ方へ目を泳がせた。
「……へぇー……」
その様子を肯定と受け止めたユーリは改めてそれを見る。
綺麗なきつね色と薄い卵色がマーブル模様になったそれに挟んであるものはキウイとバナナ。
それから生クリーム。
ワンダーシェフから貰ったレシピそのままに作ったような、お手本のようなクレープだった。
しかし、デュークが甘味を作るとは珍しい。
今までユーリが作ったものを一緒に食べるということはあったものの、別に特別好きと言うわけではないらしいから意外に思ったと言うのが正しいのかもしれない。
だいたい、珍しいもなにも、デュークが自ら甘味を作ったのを見たのは初めてだ。
どんな心境の変化なのだろうか。
実は、クレープは結構お気に入りだったのだろうか。
以前作ったときあまり表情に変化がなかったからお気に召さなかったのかと思っていたが、割りと気に入っていたのだろうか。
そうだったら、少し嬉しい。
今まで幾つも作ってきた甘味の中で、やっとデュークの好きなものがわかったのだから(まだそう言い切るには早いが)。
それに加えて、自分も好きなものがデュークの好きなものと一緒だというのはなんとなく嬉しい。
そんなことを考えつつ、クレープに視線を寄せていたユーリがふと顔を上げると深紅と目があった。
――もしかしたら、誤解されたかもしれない。
一つしかないクレープを凝視していたユーリは慌てて弁解した。
「ぁ、わりぃ。別に食いたいとかじゃないから」
気にせず食べてくれと、皿をデュークの前に置き直した。
が、一秒も経たぬ内にユーリの前に置き直された。
「うん?」
当然頭を捻ったユーリにデュークが淡々と答えた。
「お前に、作ったものだ」
「えっ」
思わず聞き返した。
「オレに?」
「確か、好きだったろう」
「いや、まぁ好きだけど……」
デュークが、自分のために?
確かに以前作ったとき、そんなようなことを溢していた気もするが……。
それを、覚えていて、作ってくれた?
口許に手を当て、再度皿のクレープを見やる。
美味そうなクレープ。
きちんと盛り付けられたそれはさっき見たときよりも数倍美味そうに見えた。
嬉しいなんてものじゃない。
なにも言えないくらい、勝手に口許が緩むくらい、なにか胸というか心というか、全身でなんとも言えない感情が弾け飛んでいる気がする。
「っと…………さ、……さんきゅ」
酷く居心地が悪いような、居ても立ってもいられない妙な気分に陥って、暫くの間クレープを見つめたまま固まった。
「……食べないのか?」
「食うっ、食うよっ!」
見かねて発言したデュークに慌てて宣言したが、そこではたと気が付いた。
皿は一つ。
クレープも勿論一つ。
自分、一人分しかない。
せっかく(ユーリが知る限りでは)初めて作ったクレープを、作った本人が食べないのは如何なものか。
気分的に悪いものがある。
「……お前の分は?」
「……」
返ってこない返事にやはりと息を吐いた。
「せっかく作ったんだ。デュークも食べろよ」
「いや、それはお前が食え。……、……一応、ある」
え?と机の上を見たがやはり皿は一つしかない。
「向こうにある」
台所の方を指して言われ、なんだと安心した。
「なら持ってこいよ」
一緒に食べようと言う意味の誘いだったが、デュークはこれに首を振った。
「なんで」
「いや……、特に深い意味はない」
「ふーん……」
明らかに何か隠しているその態度に、ユーリは強行突破することにした。
「じゃ、オレが行くよ」
「!」
皿をひょいと片手に持って迷わず台所へ足を運んだ。
「っ、待て!」
焦るデュークなんて、珍しい。
レアな焦り顔も見てみたかったが、そこは堪えて先に台所へと足を踏み入れていた。
――そこでユーリが目にしたのは大皿に乗った『なにか』。
「……」
「……」
遅れてきたデュークに視線を移せば、そっぽを向かれた。
「……なに、これ」
本日二度目の台詞に、デュークは沈黙したままだ。
一応、大皿には『なにか』が盛られていた。
黒かったり、きつね色だったりするそれらは小山になって置いてある。
「…………その、」
デュークが躊躇いがちに口を開いた。
「薄く、焦がさず、上に破かずにというのはなかなか……」
言ってまた黙り込んだ。
――つまり、失敗作というわけらしい。
「……おま……、可愛すぎ……っ」
未だかつて、こんなにもデュークが可愛く見えたことなどあっただろうか、いや絶対無い。
確かにふとした瞬間可愛く見えることはあるけれど、こんな、どうしようもなく可愛い姿なんて見たことがない。
思わず自分の頬まで熱くなったユーリは、緩む口許を押さえた。
「……可愛いのはお前だ」
ふんと顔を背けたまま言われても、愛しさが込み上げるだけだった。
「……オレも、あれ食っていい?」
ちらりと紅瞳が動きユーリを捉える。
「一緒に食おう?」
「……アレを?」
「ああ。これも食べるけどさ、あれも食べたい」
「……好きにすればいい」
ユーリは一旦皿を置き、早くも行動を開始した。
「えーと、クリームの残りは……とっ、これか。他にも果物あったよな?」
「…………ああ」
――その後暫くして、席に着いた二人の間でどちらがびりびりに破け、ついでにいいかんじに焦げている一番見目の悪いクレープの皮を食べるのか他愛のない口論が始まった。
クレープに甘い想いごと包んで