「……なぁ」
「なんだ」
**あなただけのフルーツパフェ
今日のユーリはいつもと違った。
何がと言えば、服装だ。
常のような黒衣ではなく、今日は鮮やかな深紅のシャツ。
それを身に付けていた。
「別に文句はねぇけどさ……」
「だから、なんだ」
「っ、……」
襟元にあしらってあるフリルをデュークが弄り正せばこそばゆさが首筋から走る。
しかしそれ以上に身を包む匂いにどうしようもなく赤み差す顔と心臓を落ち着けるのに手一杯だ。
なんとか意識を逸らそうと、何故こんなことをと元々疑問に思っていた事を口にした。
「……なにがしたいんだ?」
事の始まりは些細な約束だ。
言い始めたのはデューク。
「少し、私の頼みを聞いてはもらえぬか。代わりにお前が望むものを用意しよう」
「じゃあフルーツパフェ。お前の手作りで」
なんとなく、以前作って貰ったクレープを思い出してユーリはそう言った。
元々下手ではない料理センスの持ち主なデュークだが、あまり甘味などのデザート類は作らない。
そのデュークが以前自分のためにわざわざ拵えた好物は、そのものの美味さに相乗した別のウマさもあって忘れられない味だ。
また食べたいなとは思っていたが、せっかくの機会、以前とは違う甘味も作ってもらいたい。
「いいだろう」
さて、どんなものを作ってくれるのかと期待すること数十分後。
ユーリの目の前に特盛フルーツパフェが置かれた。
ごろごろと沢山のフルーツがクリームの海に沈み、また乗せてあり、シャーベット……いや、アイスといった方が近い冷菓がぽんっと乗っかったそれは随分なでかさだった。
早く食べないと溶けてしまうものがあった為すぐに口に含んだそれは味も最高だった。
冷たいアイスは言うまでもなく喉をひやりと通り甘く潤した。
果物特有の甘味と酸味のコラボレーションは、冷えた舌でもその魅力が充分味わえるもので、それらをほどよく優しく包み込む、きめ細かく泡立てられた生クリームは舌の上ふわりと乗ると、間もなくとろりと溶けて喉に降り重さを感じさせなかった。
飽きの来ない数種類の果実は幾重にも層になっていて、贅沢の極みと思えるものだった。
デュークが自分のために作ってくれたということを差し引いても、なかなか口には出来ないだろう代物だっただろう。
その特製パフェを食べ終わったユーリにデュークが頼んだのは『着替え』だった。
これを着てくれと差し出された赤いシャツ。
上質の布地のそれは、腕を通すとユーリの掌を半分隠した。
少しばかりサイズが大きいそれ。
包まれ鼻を擽る香りには慣れてはいるものの、心臓が鼓動を無意味に早める。
まるで抱かれているような錯覚まで起こしそうなそれは、言わずもがなデュークのシャツ。
全く同じ意匠のシャツに身を包んだデュークは、ユーリの胸元のボタンを共に留めながら小さく笑みを溢し――冒頭のやり取りが始まった。
ボタンが上までキチンと留められたのを確認すると、デュークはうむと満足気に頷いた。
「この間の続きだ」
「はぁ?」
とぼけた疑問の声を上げるユーリに構わずデュークはくるりと後ろに回った。
そしてその背に流れる黒を梳き、束ね始める。
「この間って?」
頭上で一纏めにされた髪を揺らし、ユーリが首を捻って顔を後ろに向けると思っていたよりも近くに顔。
「こういうことだ」
ちゅっ、と音を立てて頬に触れた唇に目を見開く。
咄嗟に距離を取ろうとした身体は抱き止められ動けない。
より強くなった香りには甘い匂いも混じって頭がクラリとした。
が、そんな場合ではない。
「なっ、ちょ、デューク!?」
「ん、なんだ?」
言いながらつぃ、と布越しから脇腹を撫でる手つきは明らかに夜の情交を思わせるもので、思わずビクリと身体が跳ねる。
「っなにすんだ馬鹿っ!」
回された腕から逃れようともがき、なんとか巻き付く腕を外し対峙したデュークは不服そうにその端正な顔を歪めた。
「む……」
「む……、っじゃねーだろ!」
馬鹿かと再び罵るユーリに、デュークはやはり不満げに言った。
「……なにが悪い」
「なにもかもがだっ。ったく、真っ昼間からなに考えてるんだよ……」
呟くよう吐いた自分の台詞に頬を染める。
……先程撫でられた箇所が妙に疼く。
己こそ真っ昼間からなにを考えているのかと恥じ入る最中、そうかとデュークが神妙に頷いた。
「一理あるな」
「……どういう意味だ?」
むすりと返した言葉に真顔が返される。
「いや、確かに闇を薄明かりで照らす刻の方がお前の魅力が際立つな、と」
――その意味を理解するまでに数秒。
刹那、顔から火が出たのではないかと思うほどに熱く熱を持った。
「な……なんの話してんだよアンタはっ!」
「以前も言っただろう」
火照る顔を隠すために上げた腕を取られ、相対する。
「お前を如何に甘く食べるか、だ」
「――っ」
かぷりと火照る頬を甘噛みされ言葉を失う。
「夜までにならまだ時間もある」
愉しげにデュークは口端を持ち上げた。
「それまで、私の甘味を十二分に彩らせて貰おうか――こんな簡素な衣だけでなくてな」
吐息が肌に掛かるほど近く、耳元で小さく囁かれる。
「……いっそ、果実でも飾るか」
――再びふわりと香った甘い香りに、響く甘い声にクラつく。
「今度は私が食べる番だ」
甘い誘惑に、甘い条件を迷うことなく呑んだ自分が逆らう術など無かった。
特別甘いフルーツパフェは
あなただけの限定品