愛して、愛されていた。
数え切れないくらい手を繋ぎ、拙いながら愛を伝え、身体をも重ねて、何度も共に朝を迎えた。
下町の狭い宿屋に二人で肩を寄せて、気のきくラピードと三人で過ごした日々。
間違いなくそれは、現実だった。
現実だった。
現実だったんだ。
だから。
誰か、――誰か嘘だと言ってくれ。
「少し、様子を見てくる」
オレとデュークとラピードのいつもの食卓。
朝食時にデュークが言うその台詞は、エアルクレーネの様子を見てくるという意味のものだ。
何度目かのそれは定期的には行っているものの、つい最近にも足を運んでいた気がする。
「オレたちも行こうか?」
「バウ!」
なにかあったのならば、動植物が影響を受けてモンスターに変異している可能性がある。
少しでも手伝えるならと申し出たそれは断られた。
「お前が居たら集中できない」
少し困ったように、でも笑っている口許にオレの口許も弛む。
「どういう意味で?」
「言わせる気か」
「おうとも」
さあ、言って貰おうかと先を促すと、聞いただけてとろけそうになる台詞をなんてことないように言う。
ラピードは勝手にしてくれとでも言うようにそっぽを向いてしまった。
「ゴチソウサマ。オレ、腹一杯で動けないわ」
どうせ自分たちよりデュークの方が強い。
エアルの影響を受けたモンスターでもデュークが後れを取ることはない。
心配を掛けるより、家で大人しくしていよう。
もしかしたら仕事も入るかもしれないし。
「すぐ戻る」
「ん」
「帰ってきたら、私も頂戴したいな」
軽いキスを交わし合い、ほんの少しの別れを惜しむ。
「行ってくる」
「おう、帰ってきたらサービスしてやるよ」
「それは楽しみだ。……留守を宜しくな」
「ワン!」
いつもは早くて三日。
遅くても一週間後には帰ってくる。
いつものように「サービス」を考えながらラピードと過ごし、
二週間が経った。
デュークが帰ってこない。
嫌な予感しかしない。
でも、あのデュークが死ぬわけがない。
生きてる。
けど帰ってこない。
なにかあったのか。
やっぱり自分も付いて行けば良かった。
今から追うか。
でも、どこのエアルクレーネだ?
帰路の途中だったら入れ違いになってしまう。
でも、もう二週間だ。
二週間もデュークがいない。
「……どうしたんだよ……」
恐怖に似た感情が沸く。
あまりの不安に、考えすぎると震えが出る。
「クゥーン……」
「……平気だよな」
早く、帰ってきてくれ。
それだけを願った。
一ヶ月が経った。
デュークが帰ってこない。
行かなくては。
もう一ヶ月も経ってしまった。
もっと早く家を出れば良かった。
出るべきだった。
悔やんでももう遅い。
万一、デュークが先に戻ってきた時のため、書き置きだけ丁寧に残す。
手早く身支度を済ませて、扉を蹴破るように出た。
目指すのは各地のエアルクレーネ。
片っ端から当たるしかない。
階段を下りて、広場に続く道に出ると、
「……デューク!」
「ワンっ」
探し人が目の前にいた。
ぼんやりと宿屋を見上げるように立っていたデュークにほんの数歩の距離でも駆け寄り、無事を確認する。
「大丈夫か?随分遅いから、探しに行こうかと思ってたんだぜ?」
見たところ、流石と言うべきか擦り傷一つ負っていない。
随分疲れているようで、ぼんやりとはしているが他に異常は
「……、だ」
「え?」
デュークが、ゆっくり、妙にゆっくりと、口を開いた。
「 だれ、だ 」