「おはよう」

 優しい声が聞こえた。

「まだ寝ているつもりか?」

 ふわふわと、体が浮いているような不思議な感覚。

「そろそろ起きた方がいい」

 そうか、自分は寝てるのか。
 そう理解すると途端胸がきゅぅと痛くなった。













 ここはどこだろう。
 ぼんやりとする頭で、視界に映る見慣れない天井を眺めて少し。
 思い出したのは今オレ達がいるのはカプワ・ノールだということ。
 寝起きで重い体をゆっくりと起こすと、部屋にはカロルとジュディが居たようで驚いたような声を上げられた。

「ユーリ!」
「はよ、っ」

 言いながら立ち上がろうとしたところ、くわりと頭が回るような感覚。
 上体を起こしたまま未だ回っているような奇妙な感覚に座っていると二人はすぐに行動を起こした。

「起きなくていいわよ。今、食事を持ってくるわ」
「はい、水」
「あ、わりぃ」

 ジュディは外に出ていき、カロルは用意がいいことにコップを手渡してきた。
 ありがたくそれを受け取り飲み込むと渇いた喉に滲みこんだ。

「まだ水あるからね」
「サンキュ」

 勘のいいことにまだ渇きの癒えない自分を察して、ちゃぽんと水差しを揺らしたカロルにコップを渡すとなみなみと水を注がれた。

「ユーリ、」
「ん?」
「その……なんでもない。はい、どうぞ」

 ごくりと二杯目を飲み乾し、空になったコップを向けて三杯目を求めると途中で言葉を止めてしまった。

「……あー、そういえば、」
「えっ、なに?」
「依頼品、見つかったか?」

 元々ノール港にはそのために来たのだ。
 依頼主の探し物を見つけるために。
 残念ながら自分は見つけることができなかったけれど、カロルたちはどうだろうか。

「あ、うん。それっぽいものは見つかったよ」
「そっか。じゃあ後は届けるだけだな」
「お待たせ」

 ガチャリと入ってきたジュディの手には軽食が載っていた。

「お腹減ってるだろうけど、とりあえずこれだけね」
「ん、サンキュ」
「落ち着いたら、もう一度寝ておく?」
「ん、いや……、移動しながらでも寝れるだろ。大丈夫だ」
「そう、じゃあ、帰りましょうか」

 疑問に思わなかったことはない。
 けれど、聞いてはいけないのだろうと思ったし、聞きたいとも思わなかった。
 どうして自分はここで、いつの間に寝ていたのか。この体の怠さと空腹感。それから二人のどこか気遣わしげな態度聞いてはいけないのだと、そう思った。











「ありがとう……、ほんとうに、ありがとう……っ!」

 涙を流しながら、嗚咽をこぼしながら、依頼主はしきりにそう言って指輪を握りしめていた。

「どうして忘れていたのかしら、自分が信じられない……」

 恋人の忘れ形見だと、そう言って。

「見つかって良かった……っ」

 涙を流して喜ぶ依頼主と、それを見て良かったと笑うカロルたち。













 オレは、それがいいことだったとは思えなかった。
















「おはよう」

 優しい声が聞こえる。

「まだ寝ているつもりか?」

 同じようなことを最近聞いた気がする。

「そろそろ起きた方がいい」

 促されて、目を開ける。
 ぼんやりと目に映った人影はどうも笑っているように見えた。
 それはとても、綺麗な笑みだったのだろう。
 オレには見えなかった筈なのに、なぜかわかった。
 わかってしまい、悲しくなった。
 胸の辺りがきゅぅと痛む。
 ――夢ならいいのに。
 全部、夢だったらいいのに。
 なんて、意味のない事を繰り返し自分を呼ぶ優しい声を聴きながら思った。





 それも、全部、憶えてない夢の話。