**病名は、
「……なぁ、フレン」
「どうしたんだい?」
ちょいとオルニオンを訪れて、フレンに会いに来た。
勿論オレは絶賛凛々の明星で活動中なわけで、ジュディスもカロルも一緒に来ているのだが二人は買い出しに出掛けた。
行ってもらったと言った方が正しいのかもしれない。
机に張り付いているフレンをいいことに、オレはベッドに横になった。――あまり寝心地がよくない。
「ユーリ?」
「ああ……」
言い出したのは自分なのに、言いにくい。
元々相談なんてことは慣れてないからどう切り出せばいいのかわからない。
さてどうしたものかと思っていたら、ぎしりと音を立ててベッドの一部が沈んだ。
フレンが机から離れてこっちに来たらしい。
「どうしたの?ほんとに……」
心配そうに声を掛けてくるフレンには悪いが、そんな心配を掛けられるほどの問題は抱えていない。
そう、大したことの無い話だ。
「……のさ」
「うん?」
カロルたちには言いにくかったし聞きにくかった。
どう言えばいいのかわからなかったし、自分がどうしたいのかもわからない。
その上、オレが奴等に相談するってのに躊躇いがあったからだ。
その点、フレンにならば気負いなく話せるかと思いきや、やっぱり口が重くなる。
変な病気にでも掛かったのかと勘繰りたくなるくらいだ。
我ながら苛つくほどにたどたどしくても、フレンにならわかるかなとささやかな期待を持ちながら、重い口を開いた。
「――別に……会ってどうするとかさ、なんも、ねぇのに……誰かに会いたくなる事って、あるか?」
たかだか一ヶ月だ。
デュークに会ってない。
別に、会う約束なんてしていない。
今までだってそうだったが、それでも今までは大抵一週間に一度はどこかしらで会っていた。
それなのに、一ヶ月。
心配しているのかと言えばそれは無い。
デュークは強い。それは実際に剣を交えたからわかる。
なにかあったとはあまり考えられない。
じゃぁ何故こんなにも気になるのかと自問しても答えがでない。
酷く苛立った。
仕事の依頼を承けて、世界を巡る度に、また会わなかったなと思う自分が酷く不快だった。
何故かと言えば簡単だ。
理由が無い。
会ってなにをするわけでもない。いや、されることはあるけど、そんなのは望んじゃいない。
望んでるわけではないのに、会う度に落とされるその感触が、記憶から消えそうになる度に思い出されて自己嫌悪に浸る。
ワケがわからなくなる。
「――ある、けど」
「ぇ、マジ?」
フレンの一言に思わずがばりと起き上がった。
「それって、なんかよくわかんねーけどイラついたり頭掻きむしりたくなるような感じか?」
「えっ?」
パチリとフレンの空色が瞬いた。
「……違うのか」
ぼすんとまた背中から倒れ込んだら、フレンが待ってと言いながら顔を覗き込んできた。
「待って待って、違うよ!ちょっと意外だったからびっくりしただけっ!」
「意外とはなんだ意外とは」
ごろりと寝返りをうつと肩を一度だけ揺すられた。
「ねぇ」
「なんだよ」
そのままの体勢で相槌を返すと、溜め息の様なものが聞こえたが無視をする。
「念のために聞くけどさ……」
「……なに」
「それって……僕、じゃ、ないよね?」
「お前?」
ごろりとまた寝返りをうつと隣ではフレンが正座していた。
「ほら、僕とだって全然会えてなかっただろ?」
「そうだっけか?」
「そうだよ」
言われて見ればそうかもしれない。
「えーっと、一ヶ月くらいか?」
「二月振りだよ」
「もうそんなに経つのか」
月日が経つのは早いものだと改めて思う。
「で、ユーリはどう思った?」
「なにが?」
「だから、僕に会いたいとか思わなかったの?」
思わなかった。
答えは直ぐに出たのに、自分でそれに頭を捻る。
なんでだ?
いやでも相手はフレンだし――
「じゃあ、エステリーゼ様は?」
「エステル?」
思ってもみなかった名前だ。
そういや随分と顔を合わせていない。
「リタは?」
「……」
凛々の明星としての活動が忙しいとはいえ、確かに会ってない。
「…………病気?」
「えっ、そこでボケるの?」
やめてよと言うフレンには悪いが、それしか思い付かない。
しかも、超極悪な、だ。
フレンは余計な事に気付かせてくれたらしい。
「いや、ないって……」
「えっちょっ、ユーリ?」
色々と堪えきれず手で顔を覆った。
嘘だろうと、そんなまさかと、そりゃないってと、以前も何度か思ったことを改めて思ったが、こうして他人と比べて逆にはっきりしてしまった。
「やっべぇ……」
――自覚したら、恐ろしい勢いで脳を侵食していくこの病気を誰かなんとかしてくれ。
病名は、恋