やめた日

 

「な、な、な……っ」
「もし、お前が行為を求めているのなら話はまた変わるのだが、そうではないのだろう?」

 行為。
 出てきた単語に、そっち方面が浮かぶ。

「ただ、純粋に、寝たいだけなら、私でも良いではないか」
「……っ」

 淡々と言うと、男は再び腕を伸ばした。
 手が、頬に触れる。
 体が妙に強張った。
 ――今度は払うことが出来なかった。

「私も、丁度抱き枕が欲しかったところだ」

 その手が優しく頬を撫で……て?
 ………………だき?

「……だき、まくら?」
「ああ」

 男は真面目に頷いた。

「やはり人肌は湯たんぽよりも優れているからな」

 どこまでも平然と、真面目な顔で言う男に顔が妙に歪んでいるのが自分でもわかる。

「ゆ、たんぽ?」
「うむ」
「……」

 何を考えているのだこの男は。
 ゆたんぽ、ってなんだ。

「最近は特に冷え込んで眠れんからな。……是非、お前に居て欲しい」

 …………まさか。
 まさかまさか、最初ッからそうとしか見てない、とか。
 まさかまさかまさか、そんなものと認識されてるのか。
 ――ひでぇ。
 こっちは、いろいろ、いろいろ考えて、心配してやってたのに、ばかみてぇ。
 ばかだバカ、馬鹿。
 大馬鹿野郎だ。
 ぐらついた自分は大馬鹿野郎だ。
 結局オレは対象外じゃねぇか。
 さっきの、クロームとの話聞いてる限りクロームともそうじゃなかったし、あんなことするし、言ったから、だから、なのに、対象外宣告。

「…………、いい」
「む?」

 もう、いい。
 ちくしょう、この野郎精々後悔しやがれ。

「……さっきの、二言はねぇな」

 別に、これ以上の関係なんか求めない。
 けど、向こうが先に言ったんだ。
 男が周りから誤解されようがどうだろうがオレは知らない気にしない考えない。
 もうそんなのやめだやめ。

「荷物、持ってくる」

 オレは安眠だけ考えてやる。
 どうにでもなりやがれ。
 どうせオレは手遅れだ。



 その日、オレが色々やめた日から、男とほとんどいつも一緒にいることになったが、相も変わらず性的接触はない上、余計な感情と経験知識を持て余した自分に結局自分が後悔するはめになることを、色々やめたオレが気付くこともなく、この日は男の暖かな腕の中で惰眠を貪って終わった。