止まらない。
いろいろ、止まらない。
思い出も、涙も、溢れ出して止まらない。
止まらない。
けど、止めなくてはいけない。
こんなんじゃ、なにもできない。
もしかしたら、ギルドの仕事がくるかもしれない。
カロルたちが来るかもしれない。
こんなんじゃ、仕事ができない。
泣きっ面を見せたくなんかない。
心配させたくない。
止めなくてはいけない。
溢れる返る思い出全部、止めないと、涙が止まらない。
アイツの帰りを待ってたことも。
一緒に居た事も。
一緒に過ごした事も。
初めて繋がった事も。
幸せだった事も。
唇を合わせた事も。
楽しかった事も。
手を繋いだ事も。
嬉しかった事も。
名前を呼んで貰った事も。
驚いた事も。
声を掛けて貰った事も。
知った事も。
沢山話した事も。
気になった事も。
出会った事さえ。
思い出全部、止めて、忘れないと、忘れないと、止まらない。
忘れよう。
覚えてたら、迷惑をかける。
知らないんだから。
知らないんだ。
知っていたらいけない。
全部、忘れないと。
わすれないと、
わすれないと、
「……リ、……」
頭が重い。
「……じょ……ぶ、ユ……」
顔がパキパキする。
「ユーリ?」
「……カ、ロル?」
ぼんやりとする頭に、寝ていたのかと理解する。
いつ寝たのか全く意識不明だ。
「大丈夫?」
「なにが?」
よいせと身体を持ち上げると、これまた非常に重い上、ベッドに寝ていなかったことに今更気付いた。
どんだけ疲れていたのか。
「あー、ちょい待ち。顔洗ってくる」
よったよったと覚束無い足取りで水差しに向かう。
酒でも飲んだのか、しかし気分は悪くない。
水で軽く顔を洗うと割かしすっきりとしたから、ただの寝過ぎか。
「で、なんだ?」
「え、と……ね。一緒に、ダングレストに来ない?」
「仕事か?」
「あ、うん。そんな感じ……」
「いいぜ」
どうせすることもないし。
なんだか酷く身体を動かしたい気分だし。
だんだんと覚醒してきた頭は空腹を訴えているから、まず飯を食べてからでいいかと言えば、何故かカロルは良かったと安堵の息のようなものを溢した。
「良かった……、ユーリが元気で」
「ん、なんでだ?」
「もっと、なんていうか……落ち込んでると思ってたからさ」
「はぁ?なんで」
「え、そりゃ、……リタから聞いたんだよ」
「何を?」
「何をって……あの人、記憶喪失になっちゃったんでしょ?」
「あの人?」
「ユーリ?」
どうしたのと目を丸くするカロルに逆に目を丸くする。
「どうしたんだよ。なんか可笑しいこと言ったか?」
「可笑しい……って、だって、そうだよ。ユーリ、あの人は?」
「あのなぁ、カロル」
半泣きみたいなカロルに呆れて嘆息する。
「あの人とか言われても、誰だかわかるわけ無いだろ?」
せめてもっと具体的に言ってくれと言うと、カロルは非常に複雑に顔を歪めた。
「……嘘、でしょ?ねぇ、なんで?わかるでしょ?――――だよっ!」
ズキリと刹那痛んだ頭は「あの人」とやらの名前を聞いたのか聞いていないのか。
それは些細なことだ。
どちらにせよ、カロルが言った名前の響きには覚えがなかった。
「知らないな」
知りたいとも思わなかった。