「おはよう、ユーリ」
「どうした?」
「可笑しなことを言う」
「寝惚けているのか?」
「ユーリ」
「ユーリ、起きて。ユーリ、」
頭が重い。
「大丈夫?ユーリ」
けれど心地がいい。
「起きて、ユーリっ」
誰かに呼ばれている気がする。
誰だろう。
「ユーリっ」
「……ぁ、?」
「……大丈夫?」
「……カ…ロ、ル……?」
なんだ……。違った。
カロルが目の前にいても驚きはしなかったが、非常にがっかりした。なにが?
目覚めの悪いことこの上ない。知らない。オレは知らない。
「ねぇ、大丈夫?」
「……なに、が……?」
頭が重い。
視界がぼやけてることに今気付いた。
風邪でも引いたかな……。
目に違和感を感じて瞬いたらなにか落ちた。
代わりに少しだけ視界が良くなる。
「……悪い夢でも、見たの?」
「ゆめ……」
ゆめ。夢。
夢なら、ここのところずっと見てる気がする。でも、あれ悪夢なんかじゃない。
ぱたりとまた目からなにかが落ちた。
いい加減不快に感じてみれば濡れていた。
水、――涙。
涙?
「なんで……?」
裾で目元を拭うと視界がようやくはっきりした。
眉を八の字にしたカロルが心配そうに見てくる。心配なんかさせたくないのに。
「大丈夫?」
「ああ、」
よいせと身体を起こしてまだ様子を窺ってくるカロルの頭をくしゃくしゃに混ぜた。
「ちょ、やめてよっ」
「心配すんなって、なんでもねぇよ」
身体を起こしてみればなんともない、絶好調だ。
問題無い。
何も気に病むこともない。
「朝飯、食おうぜ」
変わり無い、日常。
それは突然終わる。
白い影。見えるはずの無い人。
「あ、」
カロルも気付いたのか、声を上げた。どうしてこんなところにいるんだ。
赤と黒のコートに綺麗な白が映えている。会いたくなかった
颯爽と、寸分の迷い無く歩く姿。会いたくなかった?
ふと、白い影が振り向いた。いいや、知らない。
赤い目と、合う。こんな人、知らない。
身体が震えた。……ほんと、に?
「……」
何秒、視線は合っていたのか。秒?
秒なんて、そんなに時間は経っていたのか。そんなに視線を合わせてくれるわけがない。
赤い目が消えて、白髪がふわりと靡く。ほら、やっぱり、
「っユーリ!!」
ぼやけた視界は黒く塗り潰された。知らない人だ。
「ジュディス、どうしよう……」
「まだ気が付かない……」
「リタ、あの人のこと思い出させるなって言ったけど、会っちゃった……そのせい、だよね……」
「ユーリ、大丈夫かな……」
「……わからないわ」
「とりあえず、あの人を連想させるような話はこれまで通り、しないということ」
「それから、……もう会わせないようにするしか、私たちにはできないんじゃないかしら」
「そういえば、ラピードは?」
「居たよ。あの人と一緒だった」
「でも、あの人に付いて行っちゃった」
「そう……」
「ユーリ……」
「」
声が、酷く遠く聞こえる。
「」
誰かが何か言っている。
「」
聞きたいのに。
「」
何を言ってる?
「」
聞こえない。
「」
見えもしない。
「」
どこにいる?
「」
なあ、
「」
何を言ってる?
「」
聞きたいんだ。
「」
言って欲しいんだ。
「」
なあ、
「」
何を、
「 だれ、だ 」
……ああ、
なんだ、
しらないひとか。