夢。
まるで絵本のような、絵に描いたような夢。
最近、そんな夢を見ている気がする。
「おはよう」
「……はよ」
どうもスッキリ起きることが出来ないのはきっとその夢のせいだろう。
下手をするとまた眠ってしまいそうになるくらい意識がぼんやりする。
「まだ眠い?」
「ん……」
眠い。
というのとは少し違う気がする。
夢が見たいだけだ。
結局のところ寝たいとかそういうことなんだろうが、眠いわけじゃない。
だって、本当に、見たいのは、見ているのはただの夢だから。
「平気だ」
身体を起こしてしまえば案外さっぱりと起き上がれる。
だから、眠いという訳ではないのだろう。
「そう?じゃあ、一緒に聞いて貰ってもいい?」
「依頼か?」
「うん。今来てるんだ」
「了解。直ぐ行く」
オレは今、現実にいる。
「思い出せないの。何か、大切な物だった筈なのに……」
依頼者はそう言った。
「たぶん、見れば思い出すと思うから、探してきてちょうだい」
そんな無茶な。
そう皆で思ったのは間違いないが、その後わりと直ぐに依頼者の友人から有力な情報を貰って当面の目的は決まった。
「じゃあ、今日はこの辺で」
「次の探索はカプワ・ノールね」
「了解」
依頼者の忘れ物は指輪らしい。
最近カプワ・ノールを利用した後から持っている姿を見なくなったと依頼者の友人達が話していたのだ。
しかし昼から取り掛かり、その情報を得たのが夕方過ぎ。
出発は明日になった。
となれば残りは自由時間。
「露店行っていいか?」
「また行くの?」
「あそこに行くなら付いて行くわ」
一応、行き先も含めて別行動許可を貰うと二人も付いてくると言い、結局皆で行動することになった。
「買っちゃうの?」
「なにを?」
「ほら、……あの置物だよ」
「いや、買わねぇよ。邪魔じゃねーか、あんなの」
「また見てるだけ?」
「悪いか」
「そんなこと、言ってないわ」
最近、行き付けの露店。
ここのところ毎日のように通っている。
「兄ちゃん、また来たのかい?」
店主とも既に顔馴染みだ。
幾つもの雑貨が並んでいる机の上に目を滑らせ気に入りの置物を探す。が、
「……?」
無い。
「悪いね。こっちも商売なんだよ」
――知ってた。
「売れてしまったの?」
わかってたさ。
「ああ、午前中にね」
こうなることくらい。
「……新しく仕入れたりとかするの?」
迷惑だから。
「いや、うちの扱ってるのは一点物だから無理だねぇ」
邪魔だから。
「そうなんだ……」
どうして悲しむ。
「……、ユーリ?」
引き留める理由なんか、ない。
「ユーリ、どうしたの?」
意味がない。
「兄ちゃん、どうしたんだ?どっか具合でも……」
だから手も伸ばさなかった。
「ユーリ、もう行きましょう」
間違ってない。
「ユーリ、」
これで――
「……ああ、」
――あれ?
「邪魔、したな」
なんの事、考えてるんだ?
「あ、ユーリっ」
「もう帰るのかい?」
「あ、え、うん、」
「ええ、明日には立つから」
「そう、そうなんだ」
「そうかい。じゃあ、気を付けて。あの兄ちゃんにもよろしくな」
「ありがとう。伝えておくわ。……行きましょう」
「うん。……待ってよユーリっ!」
……ああ、そう、あれだ。
ウサギの置物。
手の平に乗る小さな、ただの置物。
女子供の好きそうな白いそれが誰かに買われる可能性なんて、手頃な値段を見ても有り得て当然だった。
もしオレが買っても場所を取るだけで邪魔だし、二人にも迷惑を掛けるだけだろうから手を出さなかった。
第一あんな置物必要ない。
だから見てるだけだった。
見ているだけでよかった。
見ることができるだけよかった。
あの赤い目はどこも見てなかったから、よかった。
よかったのに、もう見れない。
仕方ないさ。
わかってたことなんだから、悲しむ道理なんてない。
ああ、でもまた言えなかった。
聞けなかった。
言いたかったのに。
聞きたかったのに。
――あ、れ、?
考えかなにかが過った頭がズキリと痛む。
考えれば考えるほど痛くなる予感がして思考を止めたがそれでも痛い。
「……頭痛てぇ……」
「えっ、大丈夫?」
「ん……、寝りゃあ治るだろ」
いつの間にか横にいたカロルに返して宿に足を向ける。
さっさと寝て、気分をリセットすれば問題ないだろう。
明日は久々の遠出だ。
大丈夫。
一眠りすればきっと、大丈夫。
頭痛も、変なもやもやも、あの置物のことも全部、忘れられる。
全部、沈めて、忘れて、すっきりしよう。
大丈夫。上手くいく。上手くいってる。
だから、夢を見よう。
とびきり甘い、幸せな夢を。
本当はいけないけれど、夢だから。
ただの夢だから。
忘れるから。
少しだけ――、
「ねぇ、ジュディス」
「どうしたの、カロル?」
「もしもの話なんだけど」
「――ユーリが起きなくなったら、どうしよう……」
「ウサギ?」
誰かがなにか言っている。
「私がか?」
これは、夢。
「お前だろう」
ウサギの夢。
「私の、可愛いウサギ」
ふわふわ、白い、甘い、赤い目をしたウサギの夢。
だから、言葉は通じない。
「好きだよ」
笑うはずのないウサギが笑う、子供じみた夢。
「行ってきます」
目が覚めたら、さようなら。
絵本のような夢。