「友人でも恋人でも愛人でもなけりゃアンタいったい何様よっ!」
「アナタ、魔王様を弄んでただけだっていうの?最っ低ね」
「じゃあオレ様がもらっちゃってもいいわけか。あんだけ牽制しといてそれってなくなぁい?」
「おじ様、寝言は寝て言うものよ?私の魔王様なんだから貰うだなんて発言は控えてちょうだい」
「アンタこそ目ぇ開けたまま寝ないでよね。コイツが魔王を捨てたらどう考えても魔王はあたしに付いてくるでしょ」
「それこそ寝言でしょリタっち!どう考えてもオレ様のこの大人の包容力を求めて飛び込んでくるに決まってるっ」
「嫌だわ。男性不信になったあの方が私と契りを結んでくれるに決まってるじゃない」
「バッカじゃないっ?アイツがあたし以外を一番に頼ることなんて無いわっ」

 ぎゃんぎゃんと騒ぎ立てる魔族勢。
 エステリーゼは眉間に皺を寄せるデュークに小さく問いかけた。

「……ぇと、デューク?」
「……なんだ」
「魔王の友人だと、私は伺っていたのですが……恋仲……だったんです?」

 人魔協定は、人と魔族が無益な血を流すことのないようにと魔王とデュークが仲立になり帝都が結んだものだ。
 その折、『友の心からの願いが在ればこそ、私はこの場にいる』と金糸をゆるくたなびかせた佳人が言いながら盟約の儀に立ち会っていたことはよく覚えている。
 魔王の美しさも、その言葉の美しさも、子供ながらに部屋の隅で感動したものだ。
 あの言葉が嘘とは思えない。
 しかしあの時から十年。
 確かに二人の仲が変わっていてもおかしくはない。
 が、しかし――

「でも、魔王は、男性……の方、でしたよ、ね?」

 言っている自分の頬が熱くなるのをエステリーゼは感じた。
 記憶に残る朗々と響いていた声は低かった気もするし、背も同じく立ち会っていた宮仕えより高かった。
 そして今目の前にいる英雄も、確かに魔族張りに美しい容姿だが男性。
 と、すると……、下世話な事に考えを巡らせていると自身でも気付いていたが朱に染まっていく頬は止められなかった。

「えと、あのっへっ、偏見はしてな」
「私を友と呼んだのは先代の魔王だ」
「いですよ愛の形は人それぞ……れって、はっ、あ、そうなん、です……か……」

 益々恥ずかしさに頬を染めた。
 同じく頬を染めていたフレンがデュークの発言にあれと首を傾げた。

「先代……というのは?」
「……?」
「魔王……、魔王エルシフルが協定を結んだと伺ってます。協定を結んだ魔王と貴方が友人であったと先程貴方は仰った。……今は違う魔王なのですか?」
「……知らなかったのか?」

 驚いたように目を見張ったデューク。
 エステリーゼもその事に漸く気付きハッと息を飲んだ。

「違う、魔王……。だから言葉遣いも……」

 レイヴンから聞かされた魔王の言葉が、どうも記憶とかけ離れた印象だったのはそのせいかと納得がいったが、更に首を捻ることになった。

「……違う、魔王?」

 再び自分の言葉を重ね考え込む。

「そんなことより今の魔王とコイツのが問題よ」

 きりっと吊り上がった目がデュークを捕らえた。

「そうだわ。ハッキリしてもらわないと」
「返答によっちゃ、あんさんとはここでお別れってことでね」
「……」

 下らない論争は一先ず置いておく事になったらしい魔族勢が再び団結してデュークを囲んだ。

「どうなの!?」

 荒々しく声を上げるリタに対してデュークはさらりと答えた。

「一言で語れるものではない」
「……無難なお返事ね」

 納得がいかないと顔に書いてあるジュディス達とデュークのやり取りに、ふとフレンも加わった。

「実際、どのような関係なのですか?聞いている限りでは、今の魔王とも親密な仲に聞こえますが……」
「悪くはない」
「他人目憚らずいちゃつくバカップルがナニ言ってるの!!??」

 魔族勢の声が重なった。

「そ、そんなに仲がいいんです?」

 半端無いそのハモりと声量に、エステリーゼも思考を中断し会話に加わった。

「いいも悪いもないわよっ」
「そのポジション寄越せって感じだわね」
「悔しいけれど、あの方の心の半分は確実にこの人に傾いているわ」
「……それはどうだかな」

 すいっとデュークは視線をさ迷わせた。

「アレは存外気難しい」

 心なしか沈んだ様にも聞こえたそれに鼻を鳴らしたのはリタだ。

「ふんっ、なによ。会う度会う度引っ付いて離れないくせに」
「二人で寝室に籠って出てこないくせに」

 続いて、ジュディスがそう言うとデュークはツンと応えた。

「疚しいことはなにもしていない」
「えっ、してないの!?」

 過剰に反応したのはレイヴンだ。

「あんだけハグとかキスとかしといて?それ以上はないの?」
「……」

 無言。
 返されたそれに「へぇー」と意味深に溢すと、レイヴンはポツリと呟いた。

「なら、オレ様頑張っちゃおうかなぁ……」

 刹那、銀が閃いた。

「何か、言ったか」
「……イエ、ナニモ」

 絶対零度の視線と共に、再び喉元に抜き身の剣が突き付けられたレイヴンは両の手を上げた。
 それを見、剣を納めると嘆息を溢す。
 いい加減この馬鹿馬鹿しいやり取りは終いにせねばと切り出した。

「ともかく、私は魔王の思っている事などわからん。この話はこ」
「では、デュークは今の魔王をどう思ってるんです?」

 エステリーゼがデュークの声に被さり発言した。
 以外に大きく響いたそれに、皆がデュークの返答を求め視線が集まった。
 ――ここで無理に話を変えようとしても無駄だろう。
 多数決により話は続行されることになったことを悟ったデュークは深く息を吐いた。

「……………………失い難い存在だ」
「もっと噛み砕いて言ってくれない?」

 ジュディスがにこりと促す。
 また一つ息を短く吐くと、静かに答えた。

「……できれば、伴に、同じ時を過ごしたいとは、思っている」

 おおっと歓声が上がる中、デュークは殊更素っ気なく言った。

「これで満足だろう。いい加減話を」
「素敵ですっ!」
「……」

 が、キラキラと瞳を輝かせ、感動に胸を震わせたエステリーゼがデュークの心知らず話を更に続けた。

「種族の壁を超えた愛……。人と魔族の素晴らしい関係ですね!私、応援しますっ!」
「……」
「よかったわね」
「黙れ」

 なんとも言えない顔をしたデュークにレイヴンが笑い、鋭く睨み返された。

「ところで、そうすると今の魔王は、女性なんですか?」
「ジュディスさんもこんなに綺麗なのに、魔王はもっと美しい方なんですよね……」

 力のある魔族は皆優れた容姿を持つと聞く。
 前魔王の、神々しいまでに美しい立ち住まいや何やらを思い出しながら、エステリーゼはまだ見ぬ美女と美男のカップルを脳裏に描いた。
 ジュディスも楽し気にその会話に加わる。

「ええ、ほんと、あの方は美しいわ。闇を溶かしたような絹のお髪も、白くも健康的なすべらかなお肌も」
「……触ったのか」
「うふふ、ナイショ」

 デュークがジュディスの発言に顔をしかめている間も魔王に対する絶賛は続いた。

「あたしは眼が一番綺麗だと思う。深くて濃い意志の強い紫水晶」
「うーん。それもいいけど、やっぱ魔王はあの性格ってか、心意気あっての魔王かなって思うわ。ちょいひねくれてっけど真っ直ぐで、とっても魅力的よね。甘いものが好きってのも可愛いし……」
「手も好き。ゴツゴツしてるけどあったくて、……優しい」
「ゴツゴツ?」
「いいなぁリタっちは。おっさん内蔵抉れそうな鉄拳しか喰らったこと無いわ」
「鉄拳?」
「あ、声も好き」
「いいねぇ、あの低く響くエロボイス。おっさんも大好きっ」
「低い?」
「えっと、女性なんですよね?」

 なにやら聞き捨てならない言葉が続き、不安げに尋ねるエステリーゼ達の視線を受け流し、リタ達はデュークに投げた。

「どっち?」
「……私に聞くな」
「男性だと一応言ってたけど……?」
「下半身見たこと無いからわかんないわ」
「エルシフルは息子と呼んでいた」
「なら男性じゃない?」
「男性らしいわよ」
「は……はぁ……」

 魔族達の随分ととぼけたやり取りには呆けるしかない。

「えっ、じゃあ、結局お二人の関係ってなんなんです?」

 巡り巡り回って戻ってきた質問に、デュークはこの短時間で何度吐いたか分からない溜め息を吐き出し、魔族達は再び好き勝手に言い始めた。









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