**無駄な、
デュークだ。
「どうした、こんな所で」
デュークだ。
「何をしている」
デュークだ。
「……おい」
デュークだ。
――阿呆のようにそれしか頭に回らなかった。
白い髪。銀髪らしいけど、白にしか見えない綺麗な髪。
少し見上げる位置にある宝石のような赤い目。
それに合わせたような紅い服。
低く響く声。
全部が全部デュークで、当たり前のことなのにひたすらそれに感動に近い何かを感じた。
意味もなくうわああああと口から漏れそうになるわけのわからない叫びを必死に堪えた。
「聞いているのか」
「ぅぁおっ」
いつの間に距離を詰めたのか、デュークの顔が酷く近くに合って驚いた。
「……」
「わっ、わりぃ」
謝ってすぐ、あ。とデュークの顔を見た。
ほんの少し、僅かにだけれど、眉が寄っている。
たったそれだけのこと。
全くもって小さなことなのに、そのことになぜだか同じくらい小さく胸が跳ねた。
なんなんだ、と自分に疑問を持ち始めている間に、デュークの顔が少し傾いた。
それに合わせて白い髪が少しだけ揺れる。
綺麗な顔は傾いても綺麗だった。
「調子でも悪いのか」
「……え?」
ぼんやりしていたらしい。
らしいでもなんでもなく、確かに惚けていた。
大変認めたくないことだが、もう見慣れていてもおかしくないコイツに、確かに見惚れていた。
自分に対してこう言うのも変な話だが、見惚れるのは千歩譲って許す。
相手は曲がりなくも美形なのだから。
ただその相手が悪い。
矛盾しているだとかなんだとかは知らないが、自分に言い聞かせる。
アレは男で、オレも男。
見惚れるのは男として間違ってる。
いくら「好き」なんだとしても、アレは対象外。
一種の気の迷いだ――ということにするんだオレっ。
「……ユーリ・ローウェル?」
「っ!」
――ダメだ。
「どうした」
「なんっ、なん、なんでもないっ」
デュークの一挙一動が心臓に悪い。
いくら平常心を唱えても揺さぶられるオレの精神はこんなにも弱いものだったのかと情けなくなる。
「何でもないようには見えないが……」
「細かいこと気にすんじゃねぇよ」
精一杯の平常心を取り繕いながらの台詞は思ったよりも雑になってしまって、急にどこかの物陰にでも入りたくなった。
おそらく、感覚としては穴があったら入りたいと同じだろう。
「ま、まぁ、んなことよりもさ、お前こそどうしたんだこんなところで」
少しばかり大袈裟に身振りを加えながら然り気無く距離を取った。
「エアルクレーネの様子を見に来た」
ふとデュークが大樹の中にあるエアルクレーネに視線をずらした。
一緒に動いた顔は横を向いてもやっぱり綺麗で、ついでに見えた白い首筋にはオレよりも出っぱった喉仏があって、やっぱり男だよなと意味のない再確認をした。
「異常の確認にな」
「ふーん……」
今までなんとも思ったことはないはずの低い声がやたら心地よく耳に響く。
「それで、お前はどうしてここに?」
「え、ああ、オレは――…………気晴らし」
間違ってない答えを返したのに、自分で言ってて嘘を吐いた気になったのは気のせいということにしたい。
「そうか」
「おぅ……」
……。
……。
…………会話が途切れた。
聞きたいことはあるけれど、聞きたくない。
どこに行ってたのかとか、なにをしていたのかとか、聞きたいけど聞きたくない。
聞いて、何故そんなことを聞くのかと返されたら「アンタの事が好きだから」とうっかり返してしまいそうだからだ。
そんなこと言えるわけがない。
そっちのケが無い奴にそんなこと言ったらどう思われるかなんてわかりきっている。
――嫌われたくない。
いやその前に、この気持ちが本当に「恋愛感情」としての「好き」なのかも怪しいのだ。
……十中八九、この不可解な感情の根元がそうなのだとしても、やっぱりどうあがいても男同士な訳で、どうしても素直に認めたくない。
…………しかしなかなか他の話題が思い付かない。
どれくらい黙っていたのかわからない。
自分の顔は知らぬ間に地面と平行になっていたから、余計わからない。
変わらない地面を眺めながら一人話題に悩んでいると、ふと「そう言えば」とデュークが言葉を漏らした。
「なっ、なんだ!?」
これ幸いにと顔を上げたが、我ながら今のは不審すぎる返答だ。
余りの必死さになんだかもうホントに逃げ出したくなってきた。
まぁ、そんなことデュークが知る由もなく、表情を変えることなく構わず話を進める。
「今日は一人なのか?」
「ぇ……あっ!」
しまった、そんな話題があったか。
「ああ、今凛々の明星は休業中なんだ」
「……」
来月の頭まで暫く休み。
そんなことを言ったらデュークは顎に手を当てて誰が見ても考えるポーズを取った。
「デューク?」
「今……、少し時間はあるか?」
「えっ」
ドキンと心臓が跳ねた。
刹那ドクドクと鼓動が勝手に早くなる。
……落ち着けオレ。
一体何を考えた。
いや、なんにも考えてない筈だ。
……いや、いやいやいや。
ほんと、マジで何にも考えてないから。
よくわからない言い訳を意味もわからず己にした直後。
「一時、私に付き合っては貰えぬか」
躊躇いがちにもう一度聞かれた言葉に考える暇もなく、気付いた時には頷いていた。
無駄な、足掻き