やめた日
「デューク、お邪魔しますよ」
ガチャンと扉の開く音がした。
「クローム、丁度良い時に来たな」
「何が丁度良いのですか。今日こそ貴方に……は…………」
徐々に明確に聞こえる足音と声の元は、すぐ目の前に、間もなく現れた。
びじん。
素直に美人だと思った。
オレという見知らぬ人に驚き目を見張っているが、それでも美形には間違いない。
――それどころじゃない。
鈍っていた思考が漸く動き出した。
「……っ邪魔、したな」
場違いな自分。
もうなんでもいい。
早くここから消えたい。
一心で足を踏み出し、女の横を通りすがろうとした。
その時、
「……ゅー、り?」
「ぇ?」
女の声で、声が、不思議な音を出した。
思わず歩みを止めて凝視していると、再び女が音を出した。
さっきよりも、明瞭に、
「ユーリ……、ユーリ、ですね?ユーリでしょう?」
何度も女の口から発音される音に驚く。
「な、んで……」
「デューク!」
突然女が怒声ともとれる語調で男に詰め寄った。
「何故私を呼ばなかったんですか。いい加減にしてくださいと先日も言いましたよね。私が運良く丁度良く、この場に来なかったらどう責任を取るつもりだったのですか!」
「責任も何も、」
「無いと言う発言は認めませんよ」
ビシリと言った女はまたオレに向き直り、つい今しがたまでつり上げていた目尻を下げた。
「初めまして、ですねユーリ。私はクロームと言います。貴方に会える日をずっと楽しみにしていました」
この状況が既に予想外だが、クロームと名乗った女は次いで、更に予想外の事を言い始めた。
「突然すみませんが、私と一緒に暮らしませんか?」
「……は?」
別に早口でもなく、逆に聞き取りやすい落ち着きのある喋り方に声であるから、聞き間違いの可能性は低い。
「その事だがクローム、」
惚けている間に男が口を挟んだ。
「なんですかデューク」
「ユーリは私と一緒に暮らして良いと言ったから私が引き取る」
「「なっ!?」」
おかしな事に声がハモった。
しかしそれ以上オレからは言葉が出ない出せない。
急な展開に全く付いていけないオレを置いて、目の前の男女は会話を続けた。
「デューク、貴方という人はどうしてそう勝手に話を進めるのですか。それから、勝手にユーリと呼ばないでください。今の今まで知らなかった貴方が呼ぶのは礼儀に反します」
「既に何度か会話した事のある私と初対面のお前でどちらが礼儀に反しているかは一先ず置くとして、もう本人に確認取った事だ。ユーリは此所に置く」
「ユーリは元々此方で引き取る予定だったのですよ。つい最近まで存在自体忘れていた貴方は相応しく無いと思います」
「10年探しても見付けられなかったのに良く言ったものだな」
「薄情者には言われたくありません。訂正は受け付けませんよ、事実ですから」
話が全く読めない。
「ねぇユーリ、貴方もそう思うでしょう?」
同意を求められたが、答えられるキャパなどとうに越えていた。
「……なんでオレの名前知ってるんだ、アンタら」
男と女が用意した椅子に、促されるまま座った。