やめた日

 

 女――クロームの話をかいつまんで纏めると、クロームはエルシフルの娘で、オレの名前はエルシフルから聞いていて、エルシフルが死んだ後からずっとオレを探していたらしい。
 何故かと言えば男と似たような理由で、エルシフルから聞いていた義弟になる予定だったオレの身柄が心配だったと言う。
 クローム自体、義弟ができる事を楽しみにしていたから尚更だったと話した。
 しかし先にオレを見つけたのは男。
 どうやら話を聞くに、オレが二人を見たあの日にクロームはその事を初めて聞いたそうだ。
 そのタイムラグに大変怒っている、現在。

「酷いです。私がずっとユーリを探していた事を知っていたのに、ついこの間まで教えてくれなかったのですよ。急にユーリの名前を覚えているかと尋ねてくるものだから問い詰めてみれば、ユーリを家に泊めているという近況。酷すぎます」
「お前も名前を教えてはくれなかったではないか」
「当たり前です。対価もなく何かを得ようなど虫が良すぎます」

 いい加減に聞き飽きた二人のやり取りには溜め息しか出てこない。

「――まぁ、その事は一先ず置くとして、重要なのはこれからです」

 男も頷き同意を示す。
 クロームは、次いで正に真剣そのものの真面目な顔でオレに向かった。

「で、ユーリはどちらの家に住みますか?」

 真っ直ぐにこっちを見つめてくる美女からなんとなく視線を逸らし、チラリと美男を窺うと目が合った
 直ぐに再び自分から目を逸らし、何もない空間を意味もなく見る。

「……って、言われても、なぁ……」

 ――非常に、困った。
 何故こんなことになったのかという理由はだいたい分かったが、それでも思う。
 何故こんなことに。
 自分がどうしたいのか、どうするべきなのか、どう返したらよいのか。
 なにも頭に浮かびやしない。
 そもそもオレは男との何とも言えない妙な関係をやめたくてここに来て……でも、いや、……、

「……仕方無い」

 ポツリと溢れた男の小さな呟きにふと顔を上げた瞬間。
 男がとんでもない行動に出た。
 オレは、――恐らくクロームも、固まった。



 酷く近い顔だとか、目だとか、重なったところの感触だとか、驚きすぎてなんにもわからなかった。