やめた日
「……じゃあな」
がちゃんとマンションの扉を閉めて家路につく。
あれから幾日か経った。
あれから、というのは、なんの性的接触も無く男と一晩過ごした日から、だ。
あの日から毎日、あの日の男と共に一夜を越しているが、やはり性的接触は僅かばかりもなく、ただ隣り合って横になり、腕に抱かれてそのまま眠りにつくという、今まででは考えられない生活をしている。
「待て」
呼び止められて振り向けば、男に厚みのある封筒を押し付けられた。
中身はわかっている。
――金だ。
「……」
何も言えず、ただそれを受け取り背を向けた。
――罪悪に似た感情が沸く。
なにも、していないのだ。
なにもしてないのに、手渡される金。
買わないかと、最初に言ったのはオレ。
拒む理由は思い付かず、渡されるがままに受け取っている。
しかしあの日から今まで渡された金はまだ一円たりとも使っていない。
おそらくこの封筒の中身も使わずにしまわれるのだろうなと他人事のように考える。
それでもまた夜は一緒に寝るのだろう。
ただただ寄り添い、暖かい腕の中で、規則正しい呼吸を聞きながら寝るのだろう。
そしてまた、自分は似たような封筒を受け取り、ほんの二、三言のやり取りの後別れるのだ。
日に日に貯まっていく金は、未だ続くこの奇妙な関係が終わる時に自分が押し返すのだろうなと、いつ使ってしまうかもわからない束を眺めながら思った。
オレはまだ、男の名前も知らない。