やめた日

 

「エルシフルが逝った後は、忙しかった」

 事故処理や葬式は勿論、遺産の問題。
 色々と揉め事が起きていたと男は話したが、それについて深くは語らなかったし、追求もしなかった。

「全て片が付いた時には私も、遅れながら友を失った耐えがたい喪失感に暫く、何も考えられなかった。ただ、淡々と生きていた」

 しかしだ。
 男が言った。

「ふと、……何故だろうな。お前の事を思い出した」

 どこか遠くを見ながら男は続ける。

「エルシフルはお前をずっと気に掛けていた。悪夢を見続ける子の為、いつでも側に誰かが居るよう、養子に迎えようとさえ言った。……私が聞いたのだから、お前も聞いていただろう」
「……」
「だから……もし、お前がエルシフルを待っていたらと、考えた」

 養護施設の子供、全員が全員「家族」を望んでいる訳ではないが、エルシフルは拒まれた事を押し通すような者ではない。
 同意の上で手続きを取りに出掛けたのなら、その後残された子供はどうしたのだろうか。
 そう、男なりに考えたらしい。

「……それで?」

 確かに、――待っていた。
 けれど、それはもう昔の話。

「アンタなりにシンパイしてくれてたのはわかったけどよ、それがなんだ」

 別に、現状など変わりはしない。

「アンタがあいつに聞かされた通り、――夢はまだ見るさ。けど、一人じゃなきゃ見ない。エルシフルでも、アンタでなくても誰だって構わない。今までだってそうしてきた」

 だからこれで終りだ。

「ならば余計、何故出ていこうとする?」

 言いながら背を向けようとしたが、次いで吐かれた台詞に固まってしまった。

「……なぜ、って……?」
「お前の口振りから察するに、『終わり』とは二度と此処に来ないという意味だろう。それは何故だ」
「……」
「誰でもいいのならば、それこそ私でも構わぬのだろう?なのに何故、出ていこうとする」



 オレは頭に女の姿を思い浮かべるだけで、なかなかその答えを男に向かって出せなかった。